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学会参加報告:自由集会「職場における合理的配慮について多職種による意見交換」に登壇(産業衛生学会2024広島その3)

 産業衛生学会2024広島の報告その3です。その1はこちらをご覧ください。その2では障害者の合理的配慮のシンポジウムの報告とそれを踏まえて押さえておきたいことを記しました。今回は米沢が登壇した自由集会「職場における合理的配慮について多職種による意見交換」の様子と、自由集会の準備をしながら精神障害者の合理的配慮について考えたことを記します。

▼自由集会:産業保健から合理的配慮を考える会

 自由集会って何だ?と思われる方もあるかと思いますが、ミニシンポジウムであったり、意見交換であったり、小セミナーであったりします。米沢は「産業保健から合理的配慮を考える会」のメンバーとしてお手伝いしました。

自由集会:産業保健から合理的配慮を考える会
テーマ:職場における合理的配慮について多職種による意見交換
日時:2024年5月25日(土)9:00-9:50
座長:小島健一(鳥飼総合法律事務所)
演者:堀本綾(オムロンエキスパートリンク)
   角振摩利子(つのふり社会保険労務士事務所)
   岩本友規(Hライフラボ)
   淀川亮(英知法律事務所)
   米沢宏(ジャパンEAPシステムズ)
   辻洋志(南森町CH労働衛生コンサルタント事務所)
世話人:江口尚(産業医科大学)
   長谷川珠子(福島大学)
   林江美(大阪医科薬科大学)
   堀米麻美(関西文紙情報産業健康保険組合)
   稲田礼子(I-QUON株式会社)

 ご覧いただければわかるように、障害者の合理的配慮のシンポジウムとメンバーがかなりかぶっています。このテーマに積極的に取り組んでいる江口先生、辻先生の思惑としては、シンポジウムで基本的な話題を取り上げ、それを受け自由集会で個別の突っ込んだ議論をしようということだったようなのですが、シンポジウムが学会の最終日最後のプログラムになってしまったので、午前に行われた自由集会はシンポジウムへの関心を高めていただくためのセッションという位置づけに変更となりました。

▼小島氏の説明から始まった

 まずは座長の小島氏から、合理的配慮についてかいつまんでの説明がありました。主なポイントはシンポジウムの報告と重なるので省きますが、小島氏は合理的配慮について、「障害者権利条約を批准するためにわが国にも導入された『合理的配慮』という法概念について、これこそが人事労務と産業保健の真の“架け橋”になるのではないか?という直感に打たれて勉強を始めた」と産業医学ジャーナルの論考の冒頭に書かれています。障害者の合理的配慮を理解する上でとてもわかりやすく、かつ簡潔に必要なことがまとめられていますので、ぜひご一読をお勧めします。

▼活発な質疑応答

 小島氏の説明の後、フロアとの質疑応答に移りました。オンラインも含めフロアからは以下のような質問が上がりました。

・労働者側と使用者側のぶつかる視点が多く、双方の理解が進まないと難しいのではないか
・企業の規模で提供できることがかなり変わるのではないか
・病状の回復程度によっては労働の基本契約の変更をせざるを得ない場合もあるが、どう考えるか
・外資系企業ではジョブ型雇用が多いが、ジョブ型でも現場が配慮してくれることが多い。ただその職位に求められる業務が行えていない場合、職位も給与も落とせないが配慮だけ必要となって、他のメンバーとの公平性で悩む
・日本企業が合併などで外資の傘下に入った場合、どれくらいの期間をかけ、雇用条件の変更をどのように説明していくか

 実際に現場で困っている、あるいは迷っている質問に対し演者のみなさんが一つひとつ丁寧に回答し、議論は盛り上がっていきましたし、これからの課題も見えてきたように思います。

▼米沢の視点

 米沢は精神科医として、話題提供のために以下のような項目を考えていました。

・障害者が被る差別・マイクロアグレッション
・それらによる傷つき体験
・その結果、「自分はダメ」という自分自身への偏見
・それを前提として起こるディスコミュニケーション
・以上を踏まえた支援者のあり方
 (TIC:トラウマ・インフォームドケア)
・合理的配慮としての配置転換(治療的配置転換)について
・障害者雇用をサポートするEAPサービス

 時間の関係でトラウマ・インフォームドケア(TIC)の紹介だけさせていただきました。

▼トラウマ・インフォームドケア(TIC)とは

 障害者はその障害ゆえに小さい頃からさまざまな偏見や差別を受けてきていることが少なくありません。社会からの偏見だけでなく家族からも、そして自分自身のことさえ偏見の目で見るようになってしまうことがあります。このあたりのことは先ほどご紹介した小島氏の論考にも書かれています。
 障害者雇用の現場で話をしていると、「どうせ私なんか」という言葉が出ることが少なくありません。過去の嫌な体験から、「やはり私はこういう不利な扱いを受けるんだ」と考えてしまう。しかしそのような「世の中の見方」を持って周囲の人と接するとコミュニケーションがうまくいかなくなるのです。その時に対応する側としては、「わがままを言っている」と捉えるのではなく、「過去に味わった嫌な体験を思い出し防衛的な態度を取ってしまうのかもしれない」と考えられたら(「トラウマのメガネで見る」と言います)、対話は違ったものになっていくかもしれません。
 合理的配慮は障害者の個々のニーズの応じるものであり、対話なくして成り立ちません。まずは障害者が困っていることを言葉にできることが大切です。対話の場面で、支援者が心の片隅に「トラウマのメガネ」を用意できると、対話がより建設的に進むのではないかと思っています。

▼楽しい自由集会でした

 このnoteを書くにあたり当日の録音を聞き直していたのですが、会場全体がとても温かな雰囲気に包まれていましたし、何よりも司会や演者、事務方が、機器の接続の不調などに悩まされながらも、とても賑やかに運営している雰囲気が伝わってきて楽しくなってしまいました。つくづくいい仲間に恵まれたものだと感謝しております。 

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