学会参加報告:「トラウマ診療はこわくない」(精神神経学会2024札幌)
またまたご報告が遅くなりましたが、6月に札幌で行われた第120回日本精神神経学会に参加しました。と言っても後輩の学会参加を助けるため私は東京で留守番。代わりにアーカイブをいくつか視聴しました。
-------------------------------------------------------------
第120回日本精神神経学会
日時:2024年6月20-22日
会場:札幌コンベンションセンター・札幌市産業振興センター
テーマ:真に役立つ精神医学
https://www.c-linkage.co.jp/jspn120/index.html
-------------------------------------------------------------
▼「トラウマ診療はこわくない」のセッションを聴講
9月30日のnoteで取り上げましたように、ここしばらくトラウマ臨床に焦点を当てています。この学会でもトラウマ関連のセッションを中心に視聴しました。
中でも印象に残ったのが久留米大学グループのトラウマ臨床でした。大江美佐里先生の教育講演「Complex PTSD:概念を知り臨床に生かす」と、オンデマンド配信限定だった「トラウマ診療はこわくない」のセッションを視聴しました。久留米大学にはかつて前田正治先生がいらっしゃり(現・福島県立医科大学)、トラウマ臨床に関して積極的に発信されていましたが、その伝統が引き継がれていたのだと胸が熱くなりました。
「トラウマ診療はこわくない」のセッションは以下のような構成でした。
ほとんどが久留米大学の先生方で、トラウマの理解が当たり前のこととして日常臨床が実践されているのであろうということが伺えます。
このセッションのタイトルが「こわくない」と付いているのを不思議に思う方もいるかもしれませんし、「そうなんだよ」と思う人もいるでしょう。特にComplex PTSDの診療では患者さんが解離症状や転換症状を呈したり、怒りのコントロールがきかず暴言や暴力といった症状を呈することもあり、対応に苦慮することがあります。しかしそれらの症状はトラウマが原因で起こりうるということが念頭にあれば、対応は随分と違ったものになるので、久留米大学の先生方はあえてこのようなタイトルを付けられたのだと思います。私はトラウマの正しい理解は精神科医、心療内科医としては必須と考えていますので、ありがたい企画でした。
▼わかりやすい心理教育テキスト
講義の中で久留米大学の先生方が作られた資料がいくつか紹介されてみたので、ホームページを覗いていました。ご覧のような心理教育テキストが無料で公開されていました。
いくつかダウンロードしてみましたが、どれもわかりやすくためになります!
私は、どんなにいい情報でも伝えたい相手が受け取れなければ、コミュニケーションとして失敗だと考えています。「正しいことを伝えたぞ」ではダメなのです。相手が受け取れやすい形に整えて渡すこと。こういうわかりやすい資料は患者さんや家族にとって大きな助けになりますし、よりわかりやすく工夫していく責任も我々にはあります。
▼「あなたのたすけになるかもしれない本」
そして、こちらはまだホームページに掲載されていないのですが、松岡先生によるヤングケアラー向けの資料、「あなたのたすけになるかもしれない本」に注目しました。その一部をご紹介します。
資料紹介1
資料紹介2
全部で54ページありますが、ここまで読みやすくわかりやすく、親の病気と子どもの心に起こることを解説した資料は見たことがありません。病気を患っている親に対する支援はもちろんですが、親が病気で苦しんでいる環境に育つ子どもも、彼ら自身にその自覚が十分にないまま苦しんでいます。少しでも周囲の大人が彼らをサポートすることで、「生きづらさの連鎖」をなくしていきたいと願っております。松岡先生をはじめとする久留米大学神経精神医学講座の先生方の熱意には本当に頭の下がる思いです。
関心ある方は松岡先生まで郵便でお問合せください。
830-0011
福岡県久留米市旭町67
久留米大学医学部 神経精神医学講座
松岡 美智子 先生
この資料が多くの方の助けになることを願ってやみません。