変化することの恐さを越えて――「魔法みたい」な体験
先日、ある方に言われて、改めて気づいたことがあります。
それは、人間は自分が変わることよりも、現状維持をしてしまうということです。なぜなら、変わることは恐いから。
どうにもこのままではまずいと思われる状況にあっても、人間は現状維持を選んでしまうことがよくあります。変わるよりも、それまで自分が馴染んでいた自明性が崩れることの方が恐ろしいというわけです。
これは、個人のことばかりではなく、社会全体についても言えることです。社会学ではそれを、「目の前が崖であるのに、目隠しをしたまま進んでいく」という比喩で表現します。
変容は、芋虫がさなぎになって蝶になるプロセスと似ています。蝶になったら、もう芋虫に戻ることはできないのです。それはある意味、とても恐いこと。でも、蝶になると、大空を自由に飛び回ることができる。芋虫の頃にいた葉っぱで羽根を休めることもできる。世界の見え方や自分の立ち位置ががらりと変わる。
カウンセラーに、さなぎの時期の変容を遂げさせる技術があるかどうか。これは確かに、ひとつの鍵かもしれません。
それで、「魔法みたい!」と言ってくださる方もいらっしゃるのですが(私はこうした言葉を、嬉しく、また、ありがたく頂戴しています)、極めて現実的なことをやっていると、結果として、ご本人にとっては魔法みたいな体験になるのかもしれません。
何より、こうした改善や変化は、その方がどうにかしようとしていらしてくださったことが、心理療法の技術云々の前に大切なことのように思っていて、いらしてくださったことに敬意をもつのです。