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【はじめての君主論】第2話:愛されるより恐れられよ!董卓の恐怖政治とマキャヴェリズムの違い


日本の公教育では教えてくれない権力を維持するための禁断の教科書。

今でこそ『君主論』が世界中で翻訳され古典の名著として扱われていますが

「内容が難しい」「もっと楽しく読みたい」

という要望に応えてエンタメ要素を加え、

読者の馴染みのある三国志を絡めた『君主論』に迫るよ。

さぁ、第2話も楽しんでくださいね。


君主にも、様々な種類がある

kawauso「という事は、君主論は理想的な君主を産み出す為に書かれた

実践的なテキスト、そういう理解でいいの?」

マキャヴェッリ「いや、厳密に言うと違います、帝王学としての君主論は

大昔から沢山書かれたけど、

それは君主を理想化して綺麗事だけを述べるか、

君主の権力の掌握過程を無視して、

同じようなパターンを押しつけるもの・・

しかし、病気に例えれば、分かる通り、一口に足が痛いと言っても、

炎症を起こした足を温めれば痛みは増幅するし、筋肉を痛めているのに、

強くマッサージすれば症状は悪化する事は道理です。

君主と言っても、様々なパターンがあり、それを把握しないで

闇雲に善政を施しても、政権を維持する事は出来ない

私の君主論は、まず、君主のタイプを規定する事から始めています」

モータン「ほお、面白そうじゃの、聞かせてくれ」


君主のパターンは2つ、世襲の君主と新しい君主


マキャヴェッリ「この世界には、国家の形態は大きく二つです。

一つは民衆の代表の自治による共和制、もう一つは君主制です。

私の著書は君主論なので、ここでは君主制を説明します。

さて、この君主制には、世襲的な君主と新しい君主があります」

kawauso「世襲君主と新しい君主?」

マキャヴェッリ「世襲君主とは、前の君主から主に血縁により

権力を移譲される君主です、この君主において統治は極めて容易です。

臣民は君主に懐いており、家臣も歴代仕えていて厳罰や恩賞を使わなくても

代々の君主が行った政治から逸脱しないで手堅く統治すれば、

政権を全うする事は難しくありません

また、仮に不幸にして政権を失っても、新しい支配者に不備があれば、

比較的容易に政権に返り咲く事も可能になるのです。

つまり、余程の暴君でない限り、政権は安泰という事です」

モータン「安定していた時の後漢じゃな、霊帝のような暗君でも、

一応、最期まで政権が維持された」

kawauso「献帝も、董卓(とうたく)や李傕(りかく)・郭汜(かくし)が

酷過ぎたから民衆に見捨てられず、

曹操の傀儡としてだけど王朝を維持したっけ」

マキャヴェッリ「一方で新しい君主は、そうはいきません。

それが実力で成り上がるにしても、陰謀で前君主を追い落すにしても

新君主と臣民の間には信頼関係はなく、臣民は隙あれば

これを引きずり降ろそうと構える事になります。

もちろん、元の君主の部下達も表面上は従っているふりをするか、

各地に免れて、再起のチャンスを臣民と共にはかる事になります。

新しい君主がそれを鎮圧するという事は、必然的に臣民を損なう事であり

領内に憎悪と軽蔑をまき散らす事になります。

おまけに新君主は味方が少ないので、それを失うまいと思うあまりに

部下や同盟主を命令に従わせる力がどうしても弱くなります。

それは、部下に横暴な振る舞いを許す事になり、掠奪や虐殺などが

発生しても、これを充分に制止できない事になります。

これは、部下や同盟主にまで嫌われれば、もはや身の置き所がなくなる

危機感から生じてしまうものです。

こうして、新しい君主は、臣民に叛かれ、元の君主の部下にも

叛かれ、自らの味方を命令に従わせる事が難しく世襲の君主に比較して

その統治には大変な困難が伴うわけです」

モータン「なんだか、董卓を思い出すのぅ、献帝を擁立しても、

元からの後漢の家臣は叛いていたし、最初から洛陽を焼いてしまって

民心は掴んでおらんし、だからこそ、部下の西涼兵にしか頼れず、

掠奪は放置して、叛く者は見せしめで殺して恐怖で抑えた」

マキャヴェッリ「まさしく、それは、新しい君主に該当しますし、

部下にしか頼れず機嫌を取るばかりで掠奪を制止できないなら

憎悪と軽蔑が一気に広まり、間も無く失脚するでしょう」

kawauso「オガオガ言って、飯食って寝てるだけかと思えば、

董卓も結構、大変だったんだなぁ」


君主が生き残る為に、どうしても避けるべきレッテル

モータン「辛いのぉ、新君主、、わしは一からじゃから、

もっと大変じゃが同情するわい」

マキャヴェッリ「そうです、新君主が権力を維持するのは世襲君主よりも、

ずっと大変ですが、それでも、絶対に避けるべきレッテルがあります」

kawauso「絶対に避けるべきレッテル?」

マキャヴェッリ「先ほども言いましたが、憎悪と軽蔑の二つのレッテルです

君主たるものは、別にケチと思われようが、スケベと言われようが、

チビと思われようが、冷酷と恐れられようが構いません。

しかし、憎悪と軽蔑だけは買ってはいけないのです」

kawauso「じーーーーーーっ・・」

モータン「何を見ておる・・・・・・

わしはチビでもケチでもスケベでもないわ!」

マキャヴェッリ「憎悪は、君主により財産を奪われたり、身内を殺されたり、

婦女子を掠奪された臣民が君主に対して感じる感情です。

それは、君主に復讐せずには治まらない意味で、恐怖などより危険です。

そして、軽蔑とは、君主が酒や女に溺れる、けた外れのギャンブルにハマる

あるいは、自分で政治決定を下せず、部下によって政治を動かされる。

法に照らして処罰すべき者を処罰できないで留めておく、

または、見せ掛けの温情で、頻繁に恩赦などを行う等で発生します。

臣民に憎まれれば、常に反乱が起きるリスクを抱えますし、

軽蔑されれば、臣民は君主を見捨てますから部下に叛かれればオシマイ

ですから、憎悪と軽蔑を被った君主で命を全うした者はいません」


でも、場合によっては、民も殺すし部下も誅殺するんじゃ?


kawauso「でも、ちょっと待って、元々味方が少ない新君主では、

軽蔑は兎も角、憎悪を買わないのは無理じゃないかな?

反抗的な民衆や叛いた部下は、やはり排除しないと自分を守れない」

マキャヴェッリ「確かに、新君主が一切の憎悪を買わないで済むのは、

不可能であると言えるでしょう。

であるならば、憎悪は一回で終わらせ、だらだら繰り返さない事です」

モータン「ほう、、」

マキャヴェッリ「つまり、百日かけて、毎日一人ずつ反逆者を処刑するのではなく

一日で百名の反逆者を処刑してしまう事です。

それも、徹底的に血も凍るような残酷さで決行しないといけません」

kawauso「どうして?」

モータン「恐怖で震えあがらせ、叛く気を失わせる・・」

マキャヴェッリ「そうです、圧倒的な恐怖の前には臣民は反抗できず、

震えあがり、自らがその対象にならない幸運を神に感謝するでしょう。

そして、ここからが重要ですが、

残酷な手法で反逆者を一括して粛清した後は

一転して善政を敷き、二度と同じような処刑を行ってはなりません

そうする事で、臣民の記憶からは、嵐のような処刑の記憶が次第に消え、

新君主の善政を受け入れ、従順に従う気風が産まれます」



モータン「つまり、董卓のように、だらだらと処刑を繰り返さず、

一回で全ての反逆者を処刑し、後は善政を敷けば、憎悪は最小で済む

そういう事じゃな、マキャヴェッリよ」

マキャヴェッリ「そうです、臣民を殺す事は悪徳ですが、

やむを得ない時は、冷酷に一度で終わらせるのです

これこそ、私が考える君主のリアリズムなのです」


君主が頼りにすべきは、臣民か貴族か?

マキャヴェッリ「君主にとっては、その支配地域に二つの階層があります。

一つは権力を持つ貴族層、もう一つは個々では権力がない臣民です。

この二つの階層に対する対応を誤っても政権は維持できません」

モータン「ワシの場合には、地方と中央の名士層と人民という事になるか」

kawauso「君主論的には、どちらが優先されるの?」

マキャヴェッリ「それは臣民です、理由は簡単で、

臣民にはこれという恩恵を施す必要がありません。

ただ、毎日を安定して送れるようにすればいいだけです。

そして、人口において臣民は圧倒的ですから臣民を味方に出来る君主は

存在を脅かす危険の大部分から開放される事になるわけです。

一方で貴族は、人口では圧倒的に少ないにも関わらず、

非常に貪欲で満足するという事を知りません。

これを満たすには、君主は財産を損なう事になるでしょう。

さらには、貴族は権力者であり、種々の特権を持ち臣民を搾取するので

君主が貴族の機嫌ばかりを取ると憎悪の対象になります。

ですので君主としては、貴族に憎まれても、臣民に憎まれる事は

絶対に避けねばならない事です」

kawauso「でも、貴族に憎まれると、陰謀で殺されたりしない?」

マキャヴェッリ「確かに貴族に憎まれれば、陰謀を企てられるでしょう。

しかし、陰謀というのは、100立てて10も成功しないものです。

陰謀者に勇気と成功の確信を与えるのは、

臣民が君主を憎んでいる場合だけ・・

そうでないなら、反乱を扇動しても乗る臣民はいない事になります。

仮にそこで陰謀を強行して君主が除かれても臣民は、

新しい君主を憎悪する事になり統治は容易ではありません」

モータン「さっきの世襲君主と新君主の違いになるんじゃな?」

kawauso「なるほど、臣民が君主を憎んでいないなら陰謀が成功する

確率が下がるし、成功しても臣民が従わないから統治は難しいのか」

マキャヴェッリ「なにも貴族に憎まれろとは言いませんが、賢明な君主は、

臣民に貴族を憎ませるように仕向け、

逆に自身には懐くように振る舞うものです。

こうすれば、貴族と臣民を憎しみあわせ、両者の利害が一致しないように

仕向ける事が出来、貴族は臣民の憎悪から身を守る為に君主の力に頼り、

逆に臣民は自らに味方してくれる君主を讃えて貴族を牽制するでしょう。

結果、君主は己の地位を安泰に導けるのです」

kawauso「本当の味方なんか君主にはいなくて、貴族と臣民を利用して

自分の盾にしているって事だね」

モータン「まあ、、そうじゃが、あっさり言うのぅ・・」


おべんちゃらを言う家臣を避ける方法


マキャヴェッリ「君主は万能である事が建前ですが、実際には、

一人の人間が知る事には限りがあります。

また、自身は最善だと信じる決断でも、えてして人間は自分に甘く、

他人には厳しい評価を下すものです。

そこで、合理的に考えて、君主は自分以外に誠実なアドバイスを行う人間を

近くに持ち、必要な場合にはアドバイスを受ける必要があります」

モータン「ふむ、、その通りじゃが、それを逆手に取り、

実際には君主にすり寄り、おべんちゃらを使い判断を誤らせる佞臣という

存在が産まれるが、それはどうやって取り除く?」

マキアヴェッリ「それには、君主が4つのポイントを守る必要があります。


第一に、評判の確かな人材を選び、その人物のみに助言を許す事、

第二に、その人物の発言を遮らず威圧的にならず忍耐強く聞く事、

第三に、その発言に不誠実が混じっていれば表情に出して怒る事

第四に、君主が必要な時だけ助言させ、それ以外は許さない事


この4つのポイントを守るなら、有象無象の人間の

いい加減なアドバイスを回避して、賢者を採用できます。

賢者も、誠実な発言をすれば採用され不誠実なら疎んじられますから、

アドバイスはより正確で厳しいモノになります。

そして、アドバイスの主導権を君主が握る事で、限度を越えて、

君主を操縦しようとする人間の介入を抑える事が出来るでしょう」

モータン「おお、荀文若を思い出した、わが子房よ・・」

kawauso「理屈はそうだけど、これバカな君主ではできないよね?」

マキャヴェッリ「もちろんです、一般論として巷では、

賢臣が名君を造るなどと言いますが、あれは正しくありません。

何故なら名君でなければ賢臣のアドバイスを聞きわける力がなく、

例え100人の賢臣がいたとしても、

それを役立てる事は出来ないからです。

私の君主論は、出来ない君主をマシにする為に書いているのではなく、

全イタリアを統治できるような偉大な君主に役立てる為に書いているので、

ダメな君主の役には最初から立ちません」



モータン「ふふふ、そうじゃろう、えっへん!」

kawauso「なんで、モータン(曹操孟徳☆50歳)が照れてるの?」


勢力を伸ばす君主とそうでない君主の違い

マキャヴェッリ「ところで、一口に君主と言っても、

版図を広げて覇者になる存在と

自分の領地を守るのに精一杯の存在がいますが、

これらの違いはなんでしょう?」

kawauso「あれでそ、無能か?そうでないか?そういう違い?」

モータン「自分の意のままになる軍隊を持っているかどうか?」

マキャヴェッリ「モータンの言う通りです。

勢力を伸ばす君主とは、自分の意のままになる軍隊を保持して動かすだけの

財力と統率力を持っている君主を意味するのです。

平時においては、或いは何十年の泰平の下では、

法や秩序が人間の行動を支配しますが

すべてが崩壊した戦時においては、

差し当たり君主の身を守るのは軍隊の力です。

自分の軍を持っていない場合、

領土を拡大するにしても、領地を守るにしても

その君主は、他人の軍事力を当てにするしかありません。

それは、自分の将来を他人の思惑に委ねてしまう判断であり、

成功する確率が低いばかりか、しばしば自身が依存する他人の軍事力に、

振り回される結果になるでしょう。

ですから、自前の軍事力をもたない君主は、領土を拡張できず、

必然的に領地に籠り、

臣民の忠誠だけを頼りにしないと生き残れないわけです」


曹操は君主論のセオリーで覇者になった

モータン「その通りじゃの、、振り返ってみれば、わしは35歳で、

反董卓連合軍に参加したが、本気で董卓と戦う諸侯は一部しかいなかった。

20万もの軍勢が結集しておったのに・・

わしは、何度も献策したが、それが自らの兵を損なう行為である以上、

あの連中が軍議や宴会だけに興味を示したのは当たり前じゃった

わしは、他人のふんどしで相撲を取る愚かさに、あの時、気付いたんじゃ」

マキャヴェッリ「その通りです、

軍議や宴会というのは、戦場で血を流す事を

避けたい君主達の言い逃れの砦です。」

モータン「それゆえ、わしは力を求めた、幸い、兗州牧の地位が転がり込み

青州黄巾賊30万を投降させる事に成功し、

それを自軍に組み込めた、

わしが自前の軍隊で領地を守り勢力を伸ばせるようになったのは、

それからじゃ」

マキャヴェッリ「それは素晴らしい、まさに私の君主論のセオリー通りです

まさにモータンは、我が国のチェーザレ・ボルジアに比肩します」

kawauso「なるほど、幾ら有能でも、自前の軍隊を持たない君主は、

常に他人の軍事力を当てにして動く、不安定な立場に置かれるって事か・・

確かにモータンと違って、劉備はあちこちで活躍した割には、

自分の軍隊が無かったから、勝っても負けても、

放浪する羽目になったっけ」

モータン「玄徳など、孔明が部下になってから気が付いた位じゃからなw」

kawauso「あの人は、デカイ事を言う割に足下が見えてないと言うかw」


【2話完】

キリスト教的倫理観を排し物議を醸した『君主論』

ルネサンス期のフィレンツェで手腕を振るった

ニッコロ・マキャヴェッリによる

乱世を生き抜くための哲学を第3話でも紹介します!

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