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母を救った甘酒はパパの

産後、私はひどいことになった。
妊婦のころ、私は生むのさえ頑張れば、あとは幸せな瞬間が来るのだと信じて疑わなかった。
生まれた喜びとともに記念撮影すると思ってたし、生まれた子を抱きながらガッツ石松似なのか具志堅似なのか見る余裕があると思っていたし(どっかで赤ちゃんはどっちかだと聞いた。あれ、具志堅さんだったかな??曖昧。)、胎盤を見せてもらうかどうかという下らない悩みまで持っていた。

が、実際は娘はなかなか出てこず、夫は出産直前で分娩室から追い出され、
ようやく生まれて、隣に寝かせてもらったのは一瞬で、触れられもせず、看護婦さんの焦った声と動きが2倍速になったのをぼんやり見ていることになった。
胎盤が見られるかというよりも、普通自然と出てくるものが、出てこないらしい。
あの、セレブが食べるという胎盤。
まさか、赤子以外に出さなければならないものがあったなんて。

大学病院に運ばれる救急車のなかで、私は出血多量で意識を失い、輸血量は元ある血液より多く投入され、運悪く意識が戻った瞬間から、手を突っ込まれて胎盤を引き剥がされ、それが、志願して気絶したいと願うほど痛く……。

夫はあまりにも白い私のかおを見て死ぬんじゃないかと思ったらしい。幸運なことに鏡が手元になかったので、自分ではわからなかった。手術が終わったあとは、一刻も早く回復して娘に会いたいということしか考えていなかった。
まだ、だっこもしてない。

数日後、少し回復してきて、今までの経緯を医者から説明をうけた時に「エヘヘ!そうだったんですかー!」と返事したら「笑いごとじゃありません」と怒られた。

ようやく地元の産院に戻って、私は娘と再会出来て、ただただハッピーだったが、助産師さんたちから無理はするなとさんざん言われた。どうやら鉄が足りないらしい。

病院から出たあとも、まだ胎盤が残っていると言われ、夫は一ヶ月育休をとり、二人三脚で乗り越えた。

そんなこんなで、とにかく血が足りなかった私を心配し、夫はとにかく鉄分をとらせた。
小松菜からレバーから。
毎日、何種類もの野菜炒めなんかを作ってくれた。

その中で、私を救ってくれた飲み物がある。

新生児との一家引きこもりドキドキ生活のなかで、心的にもからだ的にも元気の元だったのが、

パパの自家製甘酒

だったのだ。

新生児育児で夜も昼もないフラフラ生活の中で、

(母乳のつまりを恐れて)スイーツも食べられない新米母が、

甘く、でも口にしても罪悪感のない飲み物。

あまざけ。

米麹とお粥だけで作る、シンプルな飲み物。

それは『飲む点滴』。栄養価が高い!

鉄分や葉酸なんかも入ってるのが嬉しい。

牛乳割りがサイコーなのだ。


結婚前から甘酒だけは、夫が作るモノ。だった。
今でも、時々飲みたくなるが私は作らない。飲みたくなったらリクエストする。

夫は、甘酒なら面倒くさがらずに作ってくれる。これはもう、夫の仕事だ。
私に作ってとは言わないし、私も作ろうかとは言わない。

夫の甘酒。

炊飯器でお粥を炊き、米麹を混ぜて、適温になるまで冷まし、保温機能と布巾で適温をキープさせたまま時々かき混ぜながら発酵させる。

ペラリと布巾をめくるたび、最初は真っ白だったお粥がほんのり黄色味がかってくる。かき混ぜて乳白色のトロリとした液体になると、もう、出来上がり。一匙が喉の先まで甘ーい、甘酒になる。

こんなにそばで見てちょいちょい味見までしながら、自分では作らないのには訳がある。

それは、夫の甘酒であり、義理の父、つまりは夫の父の甘酒でもあるからだ。

義理の父は農家ではないのだが、趣味で梅干しやら甘酒やら、餅つきやら、色々やっている人で、帰るたびにお裾分けしてもらっていた。

特に梅干しは、何年もつけこんだ大きな瓶をそのままもらってきて、何年もかけて食べているので、ここ数年は梅干しを買ったことがない。

話し好きだがこだわりもあり、孫は可愛いが厳しさもある、そんな義父。私は義父から手作りの食材の話を聞くのが好きだった。こうすると美味しいのよ、という、微笑みが好きだった。

夫が、若いころどんな経緯で義父から甘酒の作り方を教えてもらったのか知らない。 結婚当初にはすでに作り方を知っていて、得意気に作ってくれていたから。
でも、二十歳そこそこの兄ちゃんが、田舎に住む父から甘酒を教えてもらう、そんな光景を想像するだけで、暖かい気持ちになる。

だから、甘酒はパパの味、なのだ。

あ、一応言っておくが義父は今も元気だ。

だから甘酒は夫担当で、私は癒されたい時に夫に時々作ってもらっては、ありがたくちびちび飲む。
冬、牛乳甘酒温めたのも最高だけど、夏に冷え冷えの牛乳甘酒も最高だ。
普通の市販の甘酒が物足りなく感じるほど。

飲む点滴は受け継がれていく。
娘はもう、甘酒の美味しさを知っている。

砂糖がわりに卵焼きに混ぜこめば、ほんのり優しい甘さになると、最近気づいた。

私の産後を救ってくれた甘酒は、
パパの甘酒は、
まだ進化している。

ずっと帰省できてないけれど、今度義父にあったら、そんな話がしたい。お義父さんの甘酒、息子が作ってくれてます。料理にも使ってます。

そしてタイミングが合えば、喘息でアルコールがダメな、甘酒好きの私の母にも、いつか飲ませてあげたいなと思っている。


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