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東京都で条例可決!美容師・理容師が知っておくべき「カスタマーハラスメント」

美容師・理容師は、お客様にサービスを提供する仕事です。
特別なスキルを用いる技術職であり、接客業でもあります。
仕事をする上でお客様とコミュニケーションを取ることが必須ですが、なかには接客が辛くて美容師・理容師を辞めてしまうという人も少なくありません。
経営者も例外ではなく、お客様からの苦情やスタッフの接客態度、従業員とお客様の間で板挟みになっているオーナーや店長もいるでしょう。
今回は、カスタマーハラスメント(カスハラ)から従業員を守るためのルールについて考えてみました。

■「お客様は神様」ではない?カスハラ対策が義務化

顧客による迷惑行為を「カスタマーハラスメント(カスハラ)」といいます。
2024年12月にガイドラインが制定され、厚生労働省が企業に対してカスハラ対策を義務付ける法案が2025年度の国会に提出される見通しです。
東京都では、今年4月に「カスハラ防止条例」が施行されることが決まりました。
日本のおもてなしは世界に誇る文化とされ、お客様を神様のように扱えと教えてきた経営者もいます。
多くの接客担当者はお客様のご意見を一番に考え、できるだけ要望を叶えられるように尽くしてきたことでしょう。
しかし、サービス利用者としての権利の範疇を超えるような過度な要求、従業員の人権や尊厳を傷つけるような言動は許されるものではありません。
お客様は神様でも王様でもなく、対価に見合ったサービスを提供する相手でしかないのです。
サロン経営者や店舗運営責任者はカスハラ防止の重要性を認識するとともに、必要な対策を講じなければなりません。
店舗の利益のために従業員の心身を危険にさらすことのないよう、接客体制を含めた現状の問題点や課題について考えておきましょう。

■カスハラとなりうる事例は?東京都の条例で指定されたケース

東京都のカスハラ防止条例に挙げられている具体例から、カスタマーハラスメントに該当する事例について解説します。

・問題のないサービスに関して不当な要求をする

ヘアサロンでは、オーダー通りのカラーをしたのに納得いただけず、お客様から「やり直せ」と言われた経験のあるスタッフもいるでしょう。
ネイルアートでも仕上がりに満足できなかったり、完成後のイメージが違っていたりして、無償でのやり直しを要求されることがあります。
施術したスタッフの技能が不足していた、お客様の要望を勘違いしてしまったというわけではないのに、再度同じサービスを提供するよう求めるのはカスハラにあたる可能性があります。

・サービスと関係ない商品やサロン・スタッフの私物を要求する

サロンが販売した商品とは別に、全く関係のない商品を販売するよう求めてくるお客様もいます。
例えばサロンの販売品としておすすめしたトリートメントやコスメではなく、「スタッフが私的に使っているアイテムを売ってほしい」という無理な要求もカスハラになります。
実際に、スタッフが着用していたヘアアクセサリーや衣服、店舗のディスプレイとして飾られていたインテリアまで欲しがるお客様もいるのです。
また、お店の商品として販売したものとは関係のない、お預かりしていた荷物などお客様の私物が壊れた際に従業員に賠償させる行為も過度な要求だと考えられます。
また、ヘアカット後「仕上がりに満足できないから次回のヘアカラー代をサービスしろ」などと言われた場合も、カスハラにあたる可能性が高いでしょう。
ヘアカットとヘアカラーは別の商品であり、カットが気に入らなかったといってお詫びとして無償でカラーを提供する必要はありません。

■カスハラ以上の罪になる可能性がある攻撃

サロンの従業員に対し、過度な要求をすることがカスハラだと考えられています。
一方、次のような行為はカスハラという生易しいものではなく、刑法上の犯罪にあたる可能性があるでしょう。

・従業員への身体的な攻撃

サロンスタッフに対し、物を投げつけたり、つばを吐いたりするような行為は暴行罪や傷害罪に該当する可能性があります。
殴ったり、蹴ったりする場合もカスハラ以上の犯罪行為なので、すぐに警察へ通報しましょう。

・従業員への精神的な攻撃

サロンスタッフやその親族などに、危害を加える可能性があることを示唆するような言動も犯罪にあたります。
大声で執拗に責め立てられたり、金銭を要求されたりするようなことがあれば警察へ相談しましょう。
また、スタッフの人格を否定する、大勢の前でスタッフの名誉を傷つける言動を行うのも侮辱罪などに該当します。
心の傷は立証しづらいため、防犯カメラの設置もおすすめです。

・従業員への威圧的な言動

暴力的な言葉を使わなくても、声を荒らげたり、物を叩きながら話したりする行為も犯罪に該当する可能性があります。
従業員の話を遮る、にらみつけるなどの高圧的な態度を使って要求することも、カスハラの範疇を超えています。
スタッフがお客様の威圧感に負けて対応内容を変えると、「最初からできたんじゃないの?」などと揚げ足を取られるケースもあるでしょう。
これも東京都のカスハラ防止条例ガイドラインに触れられている具体例ですが、言動の攻撃性によっては犯罪行為にあたる可能性があります。

・従業員への執拗な叱責・要求

長時間に渡ってサロンスタッフを叱りつけるなど、業務を妨害するような行為は威力業務妨害罪に該当します。
何度も電話をかけてきて文句を言う行為も、お店の業務を妨害していると認められるでしょう。
施術をやり直すまでしつこく来店・電話してくる、「自宅まで来て謝れ」というのも犯罪行為として立件される可能性があります。
このようなお客様がいた場合は、警察に相談してください。

■従業員へ土下座を要求されたら

スタッフに不手際があった場合、お客様から土下座を要求されることも考えられます。
多くの人が利用する美容サロン・理容店ではあまり見られない光景ですが、怒鳴りつけてまでお店の責任者やスタッフに土下座をさせようとするお客様もいるのです。
これまでは「土下座で済むなら…」とお客様の言う通りにするサロン経営者・従業員も少なくありませんでしたが、東京都の条例により土下座要求はカスハラだという認識が広まりつつあります。
従業員を守る立場の責任者や管理者は、お客様の強要に屈することなく毅然とした態度を取りましょう。

■長時間の居座り、個室で従業員を拘束する行為は?

「気に入らない、なんとかしろ」と、施術後も店舗に居座ってしまうお客様もいます。
お直しをしても納得しなかったり、スタッフの謝罪が足りないと言いがかりをつけたりして、長時間施術スペースを占領してお店の業務を妨害するケースもあります。
個室で施術するサロンの場合、スタッフを長時間拘束して自らの要求を繰り返せば監禁罪にあたる可能性も高いです。
正当な理由なく店舗から退去しないのは不退去罪にも該当するので、困った時は警察へ通報しましょう。

■従業員への差別行為は見ないふりをしないで!

美容師・理容師のなかには、さまざまな国のルーツを持つスタッフもいます。
肌や瞳の色、文化の違いなどを理由に侮辱的な言動をするお客様がいたら、放置しないことが大切です。
名誉毀損罪や侮辱罪にあたる行為であり、お店の経営者や従業員を監督する立場の人も看過してはいけません。
セクシュアリティによる差別、わいせつな言動やつきまとい行為などにも、絶対に許さないという姿勢を一貫させましょう。
 

サービスを提供して対価を得る立場の美容師・理容師は、お客様の要望通りにすることが最優先だと思われがちです。
カスハラを容認しない社会にするためにも、サロン側の対応も見直さなければなりません。

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