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「ミッション完了」の難しさ

昨日、MLBのロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズを制した。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。主力選手の故障が相次ぎ、シーズン開幕前の構想から大きく修正を余儀なくされた。最終盤では、期待の大谷翔平選手までが怪我を負い、東の相手本拠地で満身創痍の戦いを強いられた。しかし、女神は西海岸から来た不屈の「避ける者たち」に微笑んだ。
 
本来の体制とは程遠い状況でありながら、輝けるチャンピオンリングを獲得したことは、惜しみない称賛を送られるべき栄誉である。もちろん、他球団も同様に過酷なシーズンを懸命に戦ってきたにちがいない。持てる全てを賭したぶつかり合いは見る人の心を捉えて放さない。
 
自己研鑽を追求する武道とは異なり、野球のような競技スポーツにおいては「勝利する」ことが第一義であり、成すべき唯一のミッションである。日本のことわざに「勝って兜の緒を締めよ」とあるように、「勝利」が不可逆的に確定してはじめて完了に至る。ミッションは結果を出すことではなく、結果が確定されることによって完了する。つまり、完了とは他者によって下される判定なのである。
 
万事計画通り進み、各ステップも滞りなくクリアし、残されている着地点への道のりも視界良好だとしても、それは内部評価でしかなく、ミッションはまだ完了していない。ある経営者は、「99.9%仕上がってきたときが最も危険」だという。ベテランパイロットからも「着陸して機体が停止するまでの時間が一番緊張する」という話を聞く。なぜならゴール間近は、安堵感から気の緩みや慢心を生みだすトラップが仕掛けられている、最大の難所に他ならないからだ。
 
プロジェクトの最終段階においては、手順などの細部が整備・洗練されておらず、無駄に肥大している場合がある。しかもそれらは巧妙に潜伏しており、内部から認識できないことも多い。そのため、トラブルを柔軟に対応できない、あるいは過小評価してしまうことがある。これが、ミッション完了を急ぐあまり陥りやすい落とし穴といえる。どんなに些細な事象であっても、対処療法的にやり過ごしていると、いずれカタストロフを招く恐れがある。一本のネジの緩みが船を沈ませるように、未完了のプロジェクトは脆弱であり、簡単に水泡に帰す。
 
ミッションは、早く終わらすことよりも、完全かつ周到に完了させることを心掛けなくてはならない。


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