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雲南日本商工会通信2022年1月号「副会長の挨拶」

 地球環境についての議論が世界的に盛んです。二酸化炭素による地球温暖化の問題から、最近は中国でも電力不足になりつつあります。COP15、COP21、COP26など地球環境についての締約国会議が、世界中いろいろな所で開催されています。
 「そんな事、知ったことじゃないよ、自分の生活だけで大変なのに、環境のことまで考えられるか。オレ一人がそんなこと考えたって、何の効果もあるわけがない、なるようにしかならない、世界環境の前に、オレの経済環境と家庭環境を解決してくれ」と、他人事に感じる人が多いのは仕方ないことでしょう。
 しかし、ちょっと視点を広げて、「自然と人間」という関係性で考えると、私たちの健康とか、悩みとか、精神の健康についても少し違った感覚を得られるので、その事についてすこし考えてみましょう。
 世界的にみて、人口は都会に集中します。文明が発達し、経済が発達するにつれて、農村から都会への人口移動が起きることは、明らかな世界的傾向です。過去もそうでしたし、現代もそうで、未来はさらにそうなるでしょう。仕事があるかないか、収入が多いか少ないか、生活が楽しいか楽しくないか、作業が楽か苦しいか、いろいろな要素と比較しても、農村と都会では都会が圧倒的に勝ります。
 若い人が農村を離れ都会に出て、年寄りだけが農村に残り、その年寄りも高齢になれば介護で都会に出るか、そのまま農村で死ぬか、いずれにしても農村の人口はどんどん減っていきます。これはほとんどの先進国で起きていることで、中国も今後、都会に人口集中し、農村が人口減少するのは間違いありません。小規模な都市を作ったところで、「人が集まるところに人もお金も集まる」という原則がある限り、人は大都市に集中します。
 私自身は、農産物加工を仕事にしているので、日本の農家、台湾の農家、大陸の農家、イスラエルの農場など、色々なところで栽培を行い、農家の作業については若干の知識があります。農家作業の大変さは、都会生活とは比べものになりません。作業が大変でしかも収入が安定しないわけですから、それをやろうとする若者が増えないのは当然です。そうして都会生活人口は全人口の50%を超えるようになります。
 それでは都会生活になれば、みんな豊かで幸福になるかと言えば、これもまた一つの矛盾した現象が起きるのが現代社会の傾向です。高血圧、糖尿病、心臓病、脳血管障害、肥満などで体調が悪い人が増える上に、鬱病や引き籠もりや自閉症、「躺平」など、精神疾患や気力減退を患う人が増え、自殺者も増えるわけです。都会の生活は都会の生活で、様々な精神的圧力が高いので、かならずしも皆が豊かで幸福になるわけではないという問題を孕み、それが社会問題化してきます。
 都会生活をしている人は、あなたの周囲を見回して、目に見えるものを数えてみてください。
 壁、床、天井、蛍光灯、机、パソコン、雑誌、観葉植物、皿、棚……。さて、この中に自然のものがありますか。
 観葉植物や街路樹などは自然に見えますが、それは人間が人工的に品種を選定してその場所に植えたもので、本来の自然ではありません。
 都会生活というのは、自然を徹底的に排除して、人間が必要なものだけを合理的に配置した生活です。だから、衛生的、便利、快適という事になっています。これだけ見れば、すばらしい、合理的、理想的ということになるのですが、ひとつ大事な物を忘れています。今、まわりを見回して見えなかったもの、気がつかなかったもので、あなたの周りに必ず存在するものが一つあります。
 それはあなた自身です。
 あなた自身は、人工ですか、自然ですか?
 残念ながら、都会生活のあなたがどんなに周囲を人工物で固めても、その真ん中にいるあなたは自然物なのだという事です。人工的に作られたものではなく、あなたが自分で作ったものでもなく、都会生活に適応するように進化したわけでもなく、100%天然素材です。どんなに周囲を人工物で固めても、自分自身は天然素材であることが、様々な違和感を生み出します。それが先ほどの体調不良であり、精神疾患なのではないでしょうか。都会生活とは、単に頭で考えた「楽をする、苦労を避ける、欲望を満たす」ということで選んだだけであり、それは人類の必然的な進化形態でも何でもありません。
 人類がチンパンジーと分離してから600万年、現生人類が生まれてから20万年、人類が都会生活を始めたのはこの200年です。人間は生き残るための進化に適応して、自然淘汰と性淘汰を繰り返してきたことは現代の常識です。それでは、私たち現代人はどのような環境に最も適応するような身体になっているのでしょうか? 天然素材は、どのように作られているのか、それを考えるのが、健康と幸福への近道なのではないでしょうか。その結果が現代の都会生活であるなら理想ですが……。
 残念ながら、文明が起きて以降、環境を変える力を人間が持ったために、自然淘汰での進化はほとんど停止したと言われています。私たちの生態学的な遺伝子は新石器時代から変化していません。しかし一方、農耕が始まって以降、社会生活をするという過程での性淘汰は強化されてきました。つまり、子孫を残すため、男は懸命に社会的な地位や金銭的な地位を上げようとする。女は、地位か経済力のある男の方が、自分の子供を安心して育てられるので、そのような男を選ぶという淘汰圧力です。
 孔雀の雄が、雌の好みに応じて、尾羽根を大きく、美しく進化させるのと同様です。羽根が大きくなりすぎて、他の肉食獣に襲われる危険が大きくなっても、それを上回る生殖機会の獲得があるなら、尾羽根はどこまでも進化して大きくなります。
 こう考えると現代人が進化で獲得した遺伝的特徴をまとめると次のようになります。
 
1)飢餓に適応するように、食べるとすぐに太りやすい体質を持つ。
2)男は女を獲得するために、地位か金銭かを目指す。
3)女は優良な遺伝子と子育て環境を得るために、美しさを磨く。

 
 本来的にこの三つの条件がバランスを保って成り立つのは、農村生活なのではないでしょうか。都会生活で、この三つの条件を成り立たせようとするとそれぞれ必ず問題が起きるのです。その理由を説明しましょう。
 
1)飢餓に適応するように、食べると太りやすい体質を持つ。
⇒ これは誰もが感じていることでしょう。肥満や糖尿病が激増している現代というのは、もともと太りやすい遺伝形質をもった人類が、都会生活をして、24時間食事がいつでもできる、交通が発達し移動で運動が不要になった、機械が発達し、仕事で力を使う必要がないということになれば、太るのは当然です。喰って、寝て、運動しなければ、それは太るでしょう。農村生活であれば、体力を使うので問題にならなかったことが、都会生活では問題になる、それが三高問題(高血圧、高血糖、高血中脂質)です。本来は冬になれば獲物や食料が不足したのに、一年中、不足することがないのですから。
 
2)男は女を獲得するために、地位か金銭かを目指す。
⇒ 都会に人口が集中するということは、競争が激化することです。むかしは1万人の農村でそれぞれの男が、自分の地位を獲得できて、それにあった配偶者を見つけ、それぞれが生活を営むことが可能でしたが、1000万人の都会生活になると各仕事の規模が大きくなるだけに、就ける地位の数は減少します。当然、その競争に負ける男性が発生します。競争に負けると地位と金銭を十分に得られないので、結婚の機会や性交の機会まで減少します。都会生活は、一部の成功者と多くの落伍者を生み出すということが必然的な問題になり、結婚できない男性が増えることになります。
 
3)女は優良な遺伝子と子育て環境を得るために、美しさを磨く。
⇒ 良い遺伝子を持つ男を得るか、自分か男のどちらかが経済力を持てば、子供を育てる優良な環境が手に入ります。そのためには自分が選んだ男が自分に関心と興味と恋愛感情を持つことが一夫一婦制の大切な要素です。そのためには男が感心と興味を持つ美しさを得る戦略が重要となります。こうして女性は、着る物、ヘアーカット、装身具、ダイエット、化粧品などには強い関心を持つようになります。ところが、ここでメディアや情報化が女性の邪魔をするわけです。1万人の村であれば、そこそこの美人で通用したのに、1000万人の都会になれば、自分よりも美人は1000倍以上多くなり、それに加えてメディアで美人の写真が流布され、社会の考える美人のレベルが際限なく上昇してしまいます。こうして女性は際限ない美人競争の中に巻き込まれてしまいます。
 
 このように本来、自然の中に存在し、小規模な社会の中で、自分の周囲との関係に満足を得ながら一生を過ごすことが、進化からみた人間の身体的、精神的な幸福でした。ところが、都会生活やインターネット配信などで、数千万人、数億人の中で競わざるを得なくなったことで、大多数の人の幸福は遠くなっていきます。さらにその圧力によって、男も女も健康や精神を蝕むというのが、都会生活の帰結のようです。
 一部の成功者と、大多数の落伍者。まさにそれがアメリカであり、現代社会の分断です。社会主義市場経済の中国が、そうではない独自の新しい幸福への道を示すことができるのかどうか。そうであって欲しいと私は思います。

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