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雲南日本商工会通信2024年4月号「会長の挨拶」

 北欧のノルウェーではBEVの普及率が世界でも最も多く、新車販売比率で88%にまで達しているようです。これは2025年までにガソリン車及びディーゼル車の新車販売を廃止するという政府の方針に対して、国民が動いたこと(動きやすかったこと)が大きな要因になっているようです。
 なかでも大きな要因といえるのが政府の税制措置です。従来ガソリン車やディーゼル車等の購入の際にかかる25%の付加価値税が免除になるため、販売価格の高いBEVでも比較的買いやすく、しかも政府は継続的に免税措置を行っています。また、ノルウェーの主な発電はその地形と大量の雪解け水を利用した水力発電のため、電気代が非常に安いそうです。反してノルウェー国内で利用する化石燃料(ガソリンなど)には高額の課税を行っているためにガソリン代は高いこと、しかも車両の排出ガス量に応じて課金される追加費用も必要がないということがあります。このように金銭的な負担が低減されることは、消費者にとっては充分にEVシフトを考える要因となるでしょう。
 現在のEVシフトで世界中の課題となっているのは充電インフラの拡充です。航続距離の短いBEVは充電設備が多く設置されていることが必要不可欠であり、不充分な国ではすでにその不便さからEVシフトが進まない国も多くなっているようです。
 しかしながらノルウェーでは、いち早くインフラを整え、国内移動の大半をカバーできていることからも、他国と比べるとインフラ問題をクリアしているようです。
 さらに、驚いたことにこの国では車を所有している各家庭には元々充電設備が整っています。雪深いこの国では、一般的なガソリン車にオイルの固形化を防ぐために電気ヒータが装着されており、ガソリン車を利用するにあたっても家庭で駐車しているときにはコンセントを繋いでいるのです。よって、そのコンセントが電気自動車にそのまま利用できることからもBEVに対するハードルが低かったようです。
 ただし、問題が無いわけではありません。
 ノルウェーは化石燃料の埋蔵量が多く、国の資金の大半を化石燃料の輸出によって賄っています。自国は水力発電によるクリーンエネルギーの使用とBEVの使用により、環境にとても優しい国となっているようですが、その資金の元である世界中に輸出された化石燃料は、地球規模でみると大量のCO2を排出していることになるのです。このことが、他国で多少の物議を醸しているようです。また、本来自動車から徴収していた様々な税金が減ってしまったため、道路を整備する資金が不足して新しいインフラの拡大が難しくなってくる現実もあるようで、税制の軽減措置はそろそろ限界が来るであろうと言われています。
 一方、米国のBEV事情はどうなっているでしょう。
 つい先日、バイデン大統領は2032年までに国内の普通車における新車販売のBEV比率について、当初67%としていた目標を32%にすると大幅に下方修正してきました。最も大きな原因としては、単純に言うと消費者に受け入れられなかった(一部の消費者にしか受け入れられなかった)ということかと思います。販売価格が高い。インフラが整っていなくて不便……。広大な国では航続距離が短いことは致命的であり、特に北の寒い地域に行けば行くほどその機能が低下するBEVは、一定の地域や人(都市部や富裕層)には受け入れられてもそれがこの2~3年で一巡してしまったことで、販売が停滞してきたということでしょう。さらに、BEVは新規参入メーカーが多い一方、従来の大手自動車メーカーは経営が破綻に向かい、自動車産業にかかわる多くの失業者が出ていることも社会問題となっています。よって、次期選挙を控えている大統領は、この問題の解決策を見出さないと次回の継続すら危うい状況に陥るために、先手を打って決断した苦肉の策のように感じられます。
 また、大手レンタカー会社は所有していたBEV車を2万台処分し、ハイブリッド車やガソリン車に切り替えるという発表をしているようです。このことは率直に言って消費者の需要が無く、商売として成り立たないということを示しています。レンタカーを借りる主な目的は、限られた時間の中で旅行や仕事をすることです。その中で航続距離が短いことや待ち時間を入れると2時間も充電にかかってしまう無駄な時間は大きな負荷となります。2時間の待ち時間も自分で支払う自動車のレンタル料金に含まれるわけですから、考えてみたらこんなにばかばかしいことはありません。会社としては環境に配慮しているという良いイメージを宣伝したかったかもしれませんが、利用する側の立場を考えていなかった結果でしょう。自動車産業といえば世界各国の主要産業です。しかしながらそれは、自動車を作っているメーカーだけに限定される産業ではなく、レンタカーやタクシー、廃車サービス、ひいては運送業にまで広がるサービス業も含んだものであり、単純に脱炭素を叫んでガソリン車を悪者にするだけでは経済的な影響が大きすぎる気がします。
 欧州ではどうかというと、ここで深入りすると長くなってしまうので割愛しますが、やはり他国と同じようにEVシフト自体が失速していることは明らかです。特に経済的に落ち込む要因に対しては、政府も環境優先などといい顔をしていられない状況となっているようです。
 日本の状況はどうかというと、世界的に見ても異例のような印象を受けます。政府としては2030年(2035年だったかな?)までに化石燃料車の新車販売をなくすという方針を、他国に体裁を見せるために打ち出しましたが、メーカーや国民はまるでその方針を無視しているかのように反応せず、実際の普及率は他国には及ばない低いものとなっています。
 その原因は様々ありますが、私の見立てではその原因は国民性にあるのではないかと思っています。良い意味では周りの状況を傍観して、リスク回避のためにすぐには行動を起こさない気質。良くない意味では、周りが先に脱炭素をしてくれれば自分一人がガソリン車を乗っていたところで地球規模では対して影響は大きくないという自己中な発想(全ての日本人がそうだとは言いませんが)。
 もちろん真面目な日本の各メーカーは、EVシフトをしながらも、今の技術のままでは「今後数十年にすべてがBEVになれば環境にいいということは言えない」という信念のもとに慎重に捉えているからであり、自己中な考えで動いているわけではありませんが、正しくないと思えば世界各国の流れに逆らうような気質をちゃんと持っている国民であることが今回の件で明らかになったわけで、そこは自分としては誇らしい部分であったりもします。
 先にノルウェーのお話を例に挙げたのは、決してBEVが悪いというわけではなく、その地域や用途によってどちらがいいのかを地球規模で考えるべきで、世界中をBEVにすれば地球環境のためになるという考えが時期尚早であることが、各国の人々に周知されるようになってきていることが良い傾向だなと思っている次第です。
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 さて、前回の定例会で今後の補習授業校についてのお話をさせていただきましたが、おかげさまで新しい先生の目途が立ち、引き続き皆様のサポートをいただき継続していく運びとなりましたことをご報告させていただくとともに、会員の皆様に大変感謝を申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。

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