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雲南日本商工会通信2024年4月号「編集後記」
私の会社では、日本語教師の面接をする機会がよくあります。その関係で、私も若い応募者たちの履歴書をたくさん見ます。
面白いのは履歴書に貼ってある顔写真。その「盛りかた(画像加工)」は、1.別人のような加工、2.ほどよい加工、3.加工なし、の3種類に分けることができます。
会ったらすぐに実態が分かってしまう「1.別人のような加工」の写真を貼る日本人はほぼいないでしょう。でも私が見た履歴書の中には「1番」を貼り付けたものがかなりありました。私の「常識」ではその時点でアウトなのですが、私の会社の人たちはあまり気にしていないようです。どうしてでしょうか。
思うに、中国は以前から「盛ること」に寛容でした。「盛る文化」というべきものでしょうか。たとえば私が講演するとき、主催者は私のプロフィールを捏造してまで盛ろうとします。あるいは「〇〇精品酒店」「〇〇时尚酒店」みたいな、「それ自分で言うこと?」というネーミングのホテルがあります。
私がデザインの仕事を始めた十数年前、クライアントのほとんどが自分の会社を思いっきり盛って話し、ドヤ顔をしていたものです。
しかし最近では、そのようなクライアントが減っているのを感じます。同時に「盛るクセ」が残る経営者に限って、事業がうまく行ってなかったりします。
その背景には「経済不況」と「ネットの深化」があると思われます。経営学者の田坂広志氏は、「ネット革命」の本質を「情報権力の移行」と定義しています。これまで企業側にあった情報の主導権が、消費者に移ったという意味です。その結果「企業中心市場」から「顧客中心市場」になり、その結果、ますます顧客の立場に立ったビジネスが求められるようになりました。
中国では日本以上に「ネット革命」が急速だったため、企業人の多くは早くからそれに気づいていましたが、このたび「経済不況」に突入したことで従来のやり方を「反思」した結果、ますます意識化されるようになったのだと推察します。
実際、ネットで調べればだいたいのことが分かってしまうし、嘘を言ったらSNSで容易に暴露されてしまう以上、正直な商売が一番だし、そもそも(過剰な)自社アピール以上に消費者のことを第一に考えるべきですよね。
つまり、現在の中国社会は「盛る文化」から「正直な文化」に移行していく過程にあると言えます。いまは両者が混在していますが、今後は変わっていくでしょう。履歴書に「思い切り盛った写真」を貼る人に対し、「時代の変化に気づけない鈍感な人」というレッテルが貼られる時代が中国にやってくる日も、それほど遠くないと想像します。