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雲南日本商工会通信2023年1月号「新春コラム「日本要素をどう使うか」」
はじめに
私がいま在籍する会社は「教育部門」と「文化部門」に分かれています。「教育部門」は主に大学受験のための日本語教育を行っており、「文化部門」はマーケティングを含んだ各種デザイン業務を行っています。
この会社に私が雇われたのは、「教育」と「文化」の両面で使えそうだと思われたからです。そして彼らは、「文化部門」にも日本要素を採り入れることで、会社全体が「日本に関連する業務に強い」という企業イメージを作り出したいようです。
つまり私には、「文化部門に日本イメージを取り込む」というミッションがあります。ところが議論を進めるうちに、「文化部門」の人たちは「日本色に染まること」に対する恐怖感があることに気づきました。
1.ディスられない日本
そもそも中国では日本が嫌われがちです。最近はネトウヨみたいな愛国者が、日本に絡む話題をすぐに「文化侵略」やら「辱華」やらと叫ぶので、彼らが二の足を踏むのは当然のことです。その一方で「自社に『日本関係に強いイメージ』を取り込みたい」と思う矛盾……。
「意味わかんないな……」と思いながらも、何度かの議論を経て、「それならOK」という日本要素があるのに気づきました。
「アニメに絡んだコンテンツならOKだよ――」。
それを聞いた私は、「中国人にディスられる日本」と「ディスられない日本」の区別は何かを彼らに問いました。すると、彼らもうまく説明することができませんでした。
2.なにがディスられるのか
仕方がないので、自分で考えることにしました。
まず「中国人にディスられる日本」について考えましょう。最近ディスられた日本文化を挙げると、「和服」「日本村(京都とか日本の街を模したもの)」「日本の祭り」などがあります。
時代を遡ると、2012年の「反日活動」では、日系スーパーやコンビニ、日本料理店、日本車など日系企業がターゲットになりました。
大衆に向けた商品を売る「ユニクロ」や「無印良品」、あるいは街なかで目立つ製品、たとえば「トヨタ」や「ホンダ」などの自動車は、日本のブランドとして広く認知されているため、ターゲットになりやすいと考えられます。
3.なにがディスられないのか
では、逆に「中国人にディスられない日本」について考えてみましょう。確かに日本のアニメ関連でディスる人は少なさそうです。「暴力的・犯罪的要素が多い」として当局が配信停止した「ウルトラマンティガ」も、中国の視聴者が反発したので、暴力部分を排除した上で再開されました(2021年)。民衆側が日本コンテンツを擁護した例と言えます。
商品で言うと、健康・安全に関する日本商品はディスられにくい印象があります。たとえばエレベーター、健康食品、薬品などです。最近、コロナ治療薬として「パブロンゴールドA」が爆買いされていましたが、それを見て「この売国奴が!」と叫ぶ人は少なさそうです。
加えて、一部の人の嗜好に訴求する商品もディスられにくいと言えます。たとえば、もしスウェーデンが排斥対象になったら、H&MやIKEAといったメジャーブランドはディスられそうです。しかし、テキスタイルブランドのアルメダールスやクリッパンを買うとき、「スウェーデンだから買わない」という発想にはなりにくいでしょう。同じように、キャンプ用品の「Snow Peak」、ストリートファッションの「EVISU」や「A BATHING APE」なども、ディスられることがほぼないと思われます。
4.デザイン業界でディスられないもの
デザイン業界で言うと、日本の禅スタイル(枯山水や障子の空間など)は、「禅意風格」と言葉を変えて中国の伝統の延長として受容されています。
「無印良品」的なシンプルなデザイン(特にファッション)は、我々から見ると日本ぽく感じられますが、中国では「小清新風格」などと名を変えて受容されています。そこには清楚な女子高生の制服スタイルも含まれます。
人物で言うと、年末にラストライブをやった坂本龍一が、一部の音楽好き中国人に注目されましたが、20年前のキムタクや浜崎あゆみといった日本スターの存在感の大きさと比べれば、日本の有名人に注目すること自体が少なくなっており、首相を除けばディスり対象になりにくい状況だと思います。ドラマや映画に関しても同様で、一部の日本好きの中国人以外では注目度が低いのが現状だと思います。
5.まとめると…
以上を踏まえ、暫定的にまとめると、
【ディスられる日本】
・日本村など、民族要素が強調されるもの
・和服など、中国の慣習・風俗が脅かされそうなもの
・一般の隅々まで日本のイメージと強く結びついているもの
【ディスられない日本】
・アニメ
・中国文化に採り入れやすい概念(名前は変更されがち)
・ケチをつけることのできないクオリティのもの
・一部の人の嗜好にのみ訴求する(大衆化されていない)もの
となります。
6.アニメの特異性
こうしてみると、「アニメ」という要素が非常に特異なものに見えます。実際、2021年には14年ぶりに日本のアニメ「はたらく細胞」が中国のテレビで放映されています。
なぜアニメなのか。独断の推測で言えば、
◎第一にネトウヨ自体、子供の頃に熱狂したことがあり、断罪しにくい。また、ナショナリズムを逆なでしたコンテンツ体験がほぼない。
◎第二に、自分の子供も熱狂しており、自分の経験からみても教育的に良いものが多く、否定しにくい。
◎第三に、国内で代替できるものが非常に少ないし、「ケチをつけることのできないクオリティのもの」が多い。
ということになります。このような特徴を持つ「日本要素」は他にちょっと見当たらないのではないでしょうか。
7.「アニメ」の活用
「エロ系」や「暴力系」、「日本の伝統を過度に想起させるもの」を排除したとしても、日本のアニメ資源は豊富です。これをビジネスに活用するとどうなるでしょうか。
ポイントは「アニメをもっと深堀りして擦(こす)ること」だと思います。つまり「商品+アニメ」について、もっと深く考えるべきです。「洋服+アニメ」「メガネ+アニメ」「車+アニメ」などについて、単なるコラボ(キャンペーンのマスコットキャラクターにする)に留めるのでははく、より掘り下げてから消費者に提供するのです。
8.「アニメ」と日本料理店
たとえば日本料理店について考えてみましょう。
日本料理店は、名前からして「日本要素」と引き離すことができないものです。そのため「懐石」や「創作料理」、「Omakase」など、「日本」を排除したネーミングにすることでリスク回避に努めてきました。
そしてもちろん、すでに多くの日本料理店では「アニメ」が採り入れられています。ただ私は、もっと深堀りする必要があると思うのです。
私が考えたのは、「アニメ飯」をコンセプトにした日本料理店です。「うずまきナルト」の大好物「一楽ラーメン」、「ポニョ」が食べる「インスタントラーメン」、「トトロ」の「サツキ」が作る「弁当」、「けいおん!」でよく出てくる「和菓子」、「ゆるキャン」で登場する「キャンプ飯」、「銀魂」で出てくる「卵かけご飯」などを真面目に研究し、再現したものをメニューとするのです。
ポイントは「コンテンツを深く理解すること」。「モノを売るな、体験を売れ」と言われる昨今、「最近の若者はアニメ好きが多いよね。じゃあアニメを使って客寄せしよう」みたいな浅い発想では、消費者の心は掴めません。「アニメ飯」を出すにしても、そのアニメの背景、そのアニメが人気を集める理由、キャラクターがその料理を好きな理由などを踏まえた上で、メニュー名だけでなく、ファンが刺さる一言を添えたり、こだわりの食材を選んだりすることなどが求められます。
毎シーズンごとに人気アニメが出ている現在、新メニューには事欠きません。先週「ビリビリ」で放送されたアニメに出てくる料理をすぐに提供すれば、アニメ好きのリピーターが増えることでしょう。
他の日本料理店と一線を画するため、内装はあえてシンプルなものに留め、店名も「動漫飯研究所」みたいに固いものにするといいかもしれません。ただ全ての客層に訴求するとは限らないため、同じ街に何店舗もチェーン展開するのはお勧めしません。
以上、新春妄想コラムでした。