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雲南日本商工会通信2024年10月号「編集後記」
「繁花」と習おじさんの「戦略」
夜、昆明のクラフトビールバー。不景気なのにこの店は賑やかです。私は中国の友人と世間話をしていました。飲食業界での仕事が長い彼は、30歳過ぎのイケメン。思慮深そうな雰囲気も相まって、「繁花」(1990年代前半の上海を舞台にした、ウォン・カーウァイ監督による中国ドラマ。巧みな駆け引きを通じて上海株式市場で成り上がる物語)の主人公、阿宝(胡歌)に似ています。
彼によると、これまでも良くなかった景気が、今年になると更にガクッと下がったそうです。そして今後も悪くなる一方だろうと嘆きます。
「それって結局、習おじさんに問題があると思うんだけどな」。
思い切って私がそういうと、「その通り」と忌憚なく答えました。
そこで私は「ところで」と続け、「最近、彼は病気になって、勢力が落ちているというニュースを見た。本当かな」と尋ねました。
すると彼は顔を近づけ、「本当らしい。政局が変わるかも」とささやきました。
国内では報じられることのない情報を、彼はどうして知っているのでしょうか。
「僕は海外留学していたからね。海外に住んでいた人は、国内の人と考えがかなり違う。もちろん中国を愛しているけど、自分の国を客観的に判断したいと思っている」。
彼はVPNを使って、中国の今を多面的に捉えているのでした。
習おじさんは、欧米率いるブルーチームに対抗姿勢を見せると同時に、国営企業の優遇政策を続けていますが、ネット情報によると、アンチ習おじさん勢力はブルーチームとの融和を唱え、加えて民間企業の優遇を求めていると言われています。
もし後者の政策に変われば、ひとまず景気は上向くことでしょう。友人も、それを期待しているようです。
しかしその一方で、「もし高校野球の女子マネージャーが習おじさんの参謀になったら」の立場で考えると、違うアイデアも浮かびます。つまり、
「中国国内需要が低迷を続ける中、欧米がガタガタ言って困らせてくる。それならいっそ、世界が赤と青に明確に分断されたほうがむしろメリットになるんじゃね?」
ここで「赤と青にはっきり分断された世界」を想像してみましょう。その場合、赤チームの中で最も競争力のある製品が作れるのは中国です。確かに青チームより性能が落ちる製品もあるでしょう。しかし独裁国や途上国の多い赤チーム諸国にとって、中国の製品は安価なのがなによりの魅力です。
また独裁主義体制諸国から見ると、中国には監視ツールや言論規制システムなど、使い勝手の良い商品が多数あります。グローバルサウス諸国(新興国)にとっても、ゼロから世界第二の経済大国に成り上がった中国は魅力的なロールモデルであり、(最近は微妙とはいえ)シンパシーを感じる国はいまだに少なくないでしょう。
つまり赤と青に世界が完全に分断されれば、赤チームのリーダーになる中国には明るい未来が待っていると言えます。基軸通貨になれば人民元を沢山刷ることができるし、各国に製品を輸出することで国内の過剰生産も早々に解消されることでしょう。ただ唯一、ロシアと北朝鮮が素直じゃないところが悩みの種です。
そんなことを彼に話すと、ニヤリとして「中国のことをよく知っているね」と言いました。やっぱり「繁花」の阿宝に似ているなと思いました。