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雲南日本商工会通信2023年4月号「編集後記」
仕事の関係で、雲南省の地方にある高校にいくつも訪れました。そこで驚いたのは、授業が早朝から夜遅くまで延々と続くこと。しかも土日無し(または月に1~2回の休み)。加えてスマホも禁止。恋愛などもってのほか。3 年生になると体育の授業もなくなります。彼らは冬休みと夏休みを除き、学生宿舎に寝泊りし、学生食堂で食事をします。目的を「大学に合格すること」だけに絞っているようです。
ある学生から「日本の高校生はどんな感じですか」と聞かれました。「まあ午後3時には授業は終わるよね。その後はクラブ活動したり、アルバイトしたり。勉強したい人は、家や塾で勉強を続ける感じかな」と正直に答えると、学生は大きなため息をつきました。
確かにこのような教育システムは、勉強が嫌いな人にとっては地獄であるのはもちろん、勉強好きな人は自分でできるはずなので、彼らにとっても授業ばかりでは逆に非効率だろうと思います。
親はそんな教育をどう考えているのかと言えば、「子供の世話をしないで済むから楽だ」と思っているのだそうです。
AIが世界を席巻する昨今、今さら“百度一下就知道”な知識を頭にたくさん詰め込んだところで、せいぜい「我慢強く従順な大人」に育つだけです。今後の経済はAIも思いつかないクリエイティブな頭脳が求められるはずなので、かなり危ういと思わざるを得ませんでした。
ところが、このような高校は田舎に多く、沿海大都市の高校では様相が異なると教えてくれる人がいました。大都市の子供は総じて優秀なので、その分、高い自由度が認め られているのだそうです。彼らはきっと有名大学を卒業し、年少時の多様な体験を糧に、付加価値の高い仕事をすることになるのでしょう。
となると一部の沿海大都市の子供たちが良い仕事に就いてクリエイティブなモノを生み出し、大部分の地方の子供たちはそれを消費する側に回るという中国の未来が見えてきます。
しかしその構造は、「知的エスタブリッシュメントが集まるリベラル層」と「それ以外の保守層」に分断するアメリカに近いと言えます。そんなアメリカですら現状は強い経済を維持できているのだから、中国の未来もそこそこ安泰なのかも……。いや、「それ以外」の層が我慢強く従順な分、安定的に発展するのはむしろ中国のほうかもしれません。