雲南日本商工会通信2024年9月号「編集後記」
黙々と床をみがく清掃員。息を切らしながら部屋まで届けてくれる配達員。乗り散らかしたシェアバイクを、朝になると元の場所に戻す係員。テーブルの食べ残しを秒で片付けているお昼の定食屋スタッフ……。
心が荒みがちな中国でこのような人を見ると、心が洗われたような気分になるのは私だけでしょうか。
こういう光景を見ると、次に相反する記憶が思い出されます。10年前の昆明のスタバです。当時まだ物珍しかったこともあり、長い行列ができるのは当たり前。そんな状況を尻目に、何人もいるスタッフたちは仲間たちと談笑しながら、優雅に仕事をしていました(従業員ファーストはスタバの方針の1つ)。しかし私は、彼らに対して「感謝」より、むしろ「怒り」が込み上がりました。
それ以来、少なくとも昆明では「アンチスタバ」になったのですが、私の気持ちとは裏腹にスタバは中国で成長を続けました。
ところが現在、中国のスタバは売上高が前年同期比で1割以上減少。CEOも更迭されました(8月14日付日経記事参照)。
長期化が見込まれる不景気に加え、ラッキンコーヒーなどの躍進によって追い込まれていたにもかかわらず、ドラスチックな方針転換もなしに「2025年までに中国に3000店を新規出店」と言っていたのですから、更迭は当然のことだと思います。
では、新しいCEOであるブライアン・ニコル氏はどのような中国戦略を採っていくでしょうか。
会報2月号で述べた通り、私はスタバの強みを
1.圧倒的な認知度
2.サードプレース(居心地のいい喫茶店)を自称していること
3.好立地に出店していること
4.フラペチーノなどの商品力
5.「O2O」(オンライン to オフライン)に長けていること
の5つだと定義しました。
「4」と「5」は他社に追い付かれているので、残りの1~3で勝負しなければなりません。
そのうえで私は、「圧倒的に居心地のいい喫茶店であるという認識を消費者に強く植え付けた上で、(認知度の高さを利用して)立地のやや悪い場所にも出店することでコストを抑える戦略を採るべきだ」と述べました。
今回、それに加えて「(給料を上げた上で)スタッフの数を減らし、仕事のタスクも増やす」を提案したいです。ちゃんとテーブルまでコーヒーを届けさせるべきだし、そのついでにテーブルの上を綺麗にさせるべきです。そして、その過程で生まれる顧客との会話を重視するべきです。そうでなければ「圧倒的に居心地のいい喫茶店」とは思われないでしょう。なぜなら昆明の気の利いたカフェなら普通にやっていることだから。
居心地の良さは空間で決まるわけではありません。いまスタバに必要なのは「効率」ではなく、「いい汗かいているスタッフの姿」だと思うのです。