雲南日本商工会通信2018年10月号「会長の挨拶」
今回もまた少々レアな話なので、この通信を読む方はまず他の記事を読み、余力があったらこの挨拶分を読むことをお勧めする。
まずは単眼鏡について説明しよう。
ウチの会社は光学機器メーカーであるが主な製品の一つに双眼鏡がある。双眼鏡ほどメジャーでは無いが同じカテゴリーの製品の一つとして単眼鏡というものがある。
その名の通り双眼鏡は左右二つの目で同時に見るものだが、単眼鏡は片方の目で覗くものである。光学系としては基本的に双眼鏡の片方を使っているので同じような用途でも使用することが出来るが、実はその用途は様々であり、双眼鏡とはその市場や販路が大きく違うのである。
例えば準医療機器、世の中には弱視という病気があり、盲目ではないのだがメガネでは矯正できないレベルの視力の弱い方が意外と知られてはいないが多く存在する。彼らは例えば学校で黒板を見たり近くの文字を見る時にもこの単眼鏡を利用する。そして驚くことにわずかな光を頼りにモノを見る彼らは非常に繊細で、品質の悪いものはすぐに“見えない”との判断をされてしまうのである。そういったことからもこの単眼鏡という分野は単に“双眼鏡の片方”という気持ちで生産するとえらい目に合うのである。
また、もう一つ単眼鏡が最近になって多く利用されるようになったのが美術館などの展示品を観察するための道具としてである。例えば絵画や書道を展示会で見るときは当然直接触れることのできないようにある程度の距離(1mや2mといった)からの観察となる。例えば絵画で言えばどのような絵の具でどの色を組み合わせているとか、細部はどんなタッチで描かれているとか、そういった詳細は1m離れたところではなかなか確認できないが、単眼鏡を利用して拡大して見ることによってその奥深さは格段に広がるのである。しかもこちらも色や解像度が影響するため、品質が悪いと即座に“見えない”とのレッテルを張られてしまうのである。
要するに双眼鏡は遠くのものや景色を見ることが主な用途であり、単眼鏡は比較的近くのものを見るために利用され、しかも特に品質レベルが要求される光学機器なのである。
次に私自身全く縁遠い世界なのだが、ゲームの世界で刀剣乱舞というオンラインゲームがあることを皆様ご存じだろうか。
このゲームは実在の刀をモチーフにし、一つ一つの由緒ある刀を擬人化して刀剣男士というキャラクターに変身させ、そのキャラクターが集って悪をやっつけていくというストーリーで出来ているのである。最近では15万人以上参加者を集めたこのゲームのユーザーは各々が自分の好きなキャラクターに入れ込み、まるで実在のアイドルさながらそのキャラクターのファンになっていくという。そして驚くことに、その実在する刀が展示されている博物館にまで足を運ぶファンも少なくないという。
ここで話が繋がるわけである。
実在する刀を博物館で観察する際に、より細かくより奥深く知ることが出来るためのツール“単眼刀”が登場したのである。
元々美術館や博物館にツールとして単眼鏡を紹介しながら徐々にユーザーを広げていったある光学機器メーカーが、最近ゲームの影響で刀を見に来るユーザーに目をつけ、ゲームメーカーとコラボし、ゲームに出てくるそれぞれのキャラクターを単眼鏡にレーザー彫刻であしらったものを単眼刀として限定販売するという、今までの光学メーカーにはなかなか考えにくい企画を打ち出した。そして京都で行う博物館の企画に所縁のある刀のキャラクター4種類をWeb上で各300台売り出し、一番人気のあるキャラクターは30分で売り切れ、合計1200台の単眼刀はほぼ一日で完売した。
実はこの単眼鏡、私が父の会社に30年前に入社して初めて設計を担当した製品で、現在に至るまで定番商品として地味に売ってきており、最近では美術館需要も増して昔より販売数量は伸びていたものの、今回のような企画も併せて今年が過去最高の販売数となった製品である。
先ほどの美術品と同じように、刀にもその材料や作り方、経年によって起こった変化やその波紋、肉眼ではわからない部分が単眼鏡を利用することによってさらに近くに感じることが出来る。またただ単にキャラクターグッズとしてではなく、ツールとして利用価値の高い機器に付加価値がついたことで購買意欲が掻き立てられる。ここまで当たると思ってはいなかったようだがやはり今までにない企画を打ち出したこのメーカーの発想には敬意すら覚える。何よりも、今まで光学機器に何の縁もなかったゲーマーが、博物館に足を運んで単眼鏡を使用してくれた上にネット上で“単眼刀スゲエ”と書き込んでいるのを見て、非常にうれしい想いをさせてもらったのである。
また、商品の販売には既存のユーザーに気に入られる商品を作るだけでなく、潜在する新たなユーザーを売り方によって開拓していく重要さも改めて感じた次第である。
さて、日本国内ではこうして創造とアイデアで様々なビジネスに真剣に取り組んでいる人々がいるなかで、アメリカに理不尽な関税措置を押し付けられた中国でのビジネスをどうやって展開していったらよいものか……。
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