見出し画像

なのか展備忘録-Ⅸ 「○○の椅子」

謎の椅子が、会場のあちらこちらに置いてありました。単に椅子と呼ぶには少し高くて、梯子を使って登らなければいけない。

これらの椅子は、袴田長武様より出展された「○○の椅子」というタイトルの作品群。全3カ所(たぶん)少し高めの椅子が設置してあって、そこから会場を眺めることができます。


位置と視点

なんか上の方に置いてあるものがあるのも気になるし、椅子の方からはなぜかベルの音みたいなのもたまに聞こえてくる。上が空くのを待ちながら館内を巡り、実際に登ってみました。

画像1

高さこのくらい。

登ってみてわかるのは、視点を変えると見えるものが違ってくること。人を個人じゃなく流れで見るようになったり、出展作品を引きで見ることでゲームでなく絵画のように扱ってみたりと新鮮です。

椅子の上からは他の椅子の上も見えますから、ふと目があったりするのも楽しい。聞こえてきていたベルはそれぞれの椅子に設置されていて、なんとなく鳴らすと返事が返って来たりして楽しかったです。

ベルを鳴らすたびに会場の視線が少しこっちに向くのも、気恥ずかしいような面白いような感覚でした。

十分椅子を堪能して降りようとしている方に向けてベルを鳴らしていたずらしたり(ちゃんと返してくれた。素敵)、備え付けてあったメモに書いてあったあれこれを読んだりして、一通り楽しませてもらいました。


深淵もまた

椅子から降りてしばらく経つ頃、会場の端にもう一つ椅子があることに気づきました。

画像2

「神の椅子」と書かれた看板の近くにある椅子に座ると、目の前にはモニターが。このモニターに映し出されているのは、会場各地に設置されている椅子に座っている人たちなのでした。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
                        『善悪の彼岸』より
ちょっと違うけど。

少し高い位置に立って会場全体を見回し、下界を見分している気になっていても、もっと大きな存在に監視されているという構図が素晴らしい。
「ヤコブの椅子」「ヨハネの椅子」のような名付けで、梯子の上に椅子があって、それを「神の椅子」が監視している。

その関係性にも意図を感じてしまいます。

これはゲームなのか?

「状況を共有している相手と無言で意思の疎通を図る」「顔を合わせない相手にメッセージを残す」「監視しているようで監視されている」という、直接関わらずとも影響し合う間柄を無言で楽しむ不思議なゲームでした。

一度上に登った後、誰かが椅子の上にいるのを見て少し微笑むような。
そんな優しい後味がありました。

最後まで読んでいただいてありがとうございます! いただいたサポートは、きゃすりばーとしての活動に大事に使わせていただいています。