自閉症のこだわりと選択肢
自閉症の子供たちはこだわりが強い、ということはよく耳にしていたが、Kくんもよく分からないこだわりがあってしばしば親を困らせている。
体操着問題
Kくんが通う保育園は年少の頃から登園時は体操着を着ることになっている。お姉ちゃんも年少から年長まで毎日体操着登園をしてきたので、それを見てきたKくんも当然のように着てくれるものとおもっていた。
体操着登園初日「たいそうぎやだー」
まさかのNG発言が出てしまった。思い返せばハロウィンや発表会など、コスチューム系が大嫌いだったことを思い出す。嫌な予感がしつつ頼み込んでなんとか登園成功。
翌日「たいそうぎやだー」
前日と全く同じ、棒読みのような無感情でKくんは言う。これは無理やり着せると荒れるな、と気づき必死に頼んで頼んでズボンだけ履かせることに成功。
ワッペン作成
毎日こんな押し問答では、登園前から私が疲弊してしまう。スマホで先人達の知恵を借りようと調べてみると、体操着にワッペンを付けるという案をみつけダイソーへ駆け込んだ。ちょうどダイソーにはKくんが大好きな恐竜のワッペンが売っていたのである。しかも、ブラキオサウルス・ティラノサウルス・トリケラトプス・プテラノドンと何種類かあるので、どれかしらはKくんの興味を引くのでは。
そして翌日。
「Kくん、体操着みてみてー」
「たいそうぎやだー……あー、てぃらのー!」
やたら発音がいいティラノサウルスの名前を発してニコニコで体操着の上を着てくれた。ズボンはブラキオサウルスがいいらしい。登園中もワッペンをしきりにいじっていた。
さらに翌日。
「Kくんプテラノドンもあるよー」
「たいそうぎやだーたいそうぎやだー」
あまりにも早い飽きがきた。ワッペン作戦はむなしくも失敗に終わった。
体操着を着ないという判断
ワッペン作戦が失敗し、私はKくんに体操着を着せることを諦めた。保育園の先生方も「機会があれば声掛けしてみますので、カバンに体操着入れといてくれればいいですよ」と温かい言葉をかけてくれ、甘えてしまっている。
おそらく少し強めにKくんに言えば、かんしゃくおこした後に体操着を着てくれるんだとは思う。ただ、私自身が体操着を着ることに対して納得感ある説明が見いだせないのも事実である。
みんなで着るというルールだから?体操の時間に普段着だと危ないから?体操着を着ることで切り替えができるから?
ルールは必要性があるからルールとしているのであって、登園時の体操着着用は必要なルールなのだろうか?自分が説明出来ないことを、子供にやらせるのはなんだかとってももやもやする。保育園には申し訳ないが、体操着は諦めることにした。
選択肢を与えるということ
諦めるという判断は間違っていないとは思うが、それでも同じクラスの他の子が体操着を着て登園しているのを見るとなんとも言えない気分になってしまう。なぜKくんはこんなにもこだわるのか。このまま運動会も着ないつもりか。そんな不安が駆け巡る。
療育に関する相談を園長先生にする機会があり、その時にこの体操着問題についても触れた。その時の園長先生の答えに私はハッとさせられた。
「体操着は着たくないって子がたまにいるんですよね。だから無理に着せなくて大丈夫。
ただ、最初から着ないって決めるではなくて、今日着る服の候補のひとつに体操着を入れてみてはどうですか?Kくんが他の服を選ぶならそれでいいんです。とりあえず選択肢として入れておくとKくんの意識の中に体操着が入って、いつか選んでくれる日が来るかもしれない。選択肢にも入れないと、体操着はずっと選ばれないままですから。」
何も難しいことではない。それなのに私は体操着は着ないと決めつけて、選択肢に含めることすらしていなかった。こだわりが強いKくんは毎日自分で服を選んでいる。その中に体操着を入れてしまえばいいだけだ。
園長先生からの助言は親にも寄り添いつつ、子供の成長も促す素晴らしいものだったと思う。これを聞いてから毎日、朝の服選びタイムに体操着も見せることにしている。
「今日は体操着きてみるー?」と聞くと「たいそうぎやだー」というお決まりの回答が返ってくるし、毎日普通の服で登園している。それでも効果は一応出ているのではと感じたのは、園長先生のアドバイスから約1ヶ月後。保育園の汚れ物袋に体操着が2日連続で入っていたのである。これまではまっさらな状態で返ってきていた体操着が、2日連続汗びっしょりになって返却されてきた。保育園で先生方の声掛けで着てくれたのかもしれない。そんな想像を膨らませ、汗に濡れた体操着に感動している母がここに居る。体操着を洗濯することにこんなにルンルンする母がいるだろうか。ここに居る。
Kくんには体操着以外にもたくさんのこだわりがある。こだわり方はそれぞれで、毎回対処方法に悩まされる日々だ。それでも、その1つが小さな小さな前進の兆しを見せたこの日の喜びは覚えていたいなと思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?