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さんちゅ/マイク
2020年5月29日 23:44
10.「嫌だよ」「え?」 倫世と手分けして校内を捜し回った挙げ句、私が霞君を見つけたのは十分後のことだった。 霞君は三年生のクラスでやっていた餅つき大会に参加して、あべかわ餅を食べているところだった。私は手短に事情を説明し、協力を頼んだ。それに対する彼の返答がこれだったのだ。「どうして? どうして嫌なの?」「ていうか、どうして人の頭を膝蹴りするような奴の手伝いを俺がしなくちゃ
2020年5月22日 20:08
9. そして学祭の当日がやって来た。 このときばかりは、教師も生徒も普段とは違ういい表情。校内にいるのに開放感がある。いつもは陰に潜んでいたロマンスが発覚したり、新たに生まれたりするのもこんなときだ。 校内は至るところ賑やかだ。最初に校門の上に造花で彩られたアーチをくぐるだけで、もう心穏やかにはいられない。それは関係者も来客も一緒みたい。こちらが作り出すテンションにすぐに溶け込んでくれ
2020年5月16日 11:32
8. その日から、彼を見つめる私の視線は、前より一層熱を帯びたものへと変わった。自分でもそれが判っているから、出来るだけ視線を向けないようにしているのだが、彼はまるで極性の異なる磁石のように私の瞳を吸いつける。 気がつけば、私は霞君のことばかり考えている。 家にいるときは何をしているのか、食べ物や映画の好き嫌いはどうかとか、そんなことも考えるけど、もっと強く私の興味を引くのは、普段は髪
2020年5月9日 21:34
7. 気がつけば、客席にはもう私一人。幻想的な気配に身を嬲られているうちに、時間の感覚を失っていた。でもあえて腕時計を見る気はない。けれど、時間の経過を如実に示す現象が、私に「LADIES ROOM」と書かれた扉を開けさせた。 用を済ませて鏡の前に立ってみる。まだ頬が熱い。冷たい水で顔をジャブジャブと洗ってしまいたい気分だが、そういうわけにもいかない。 ジン・トニックに奪われたリップを
2020年5月4日 15:12
6. そして二日後。私は全裸のまま、床に散らばした服の海の真ん中に鎮座していた。 バイト先には休みの連絡を入れ、放課後まっすぐに帰宅して服選びを始めたのだが、二時間経っても何も決められずにいた。霞君との約束は午後八時だったから、まだ充分に時間はあるけれど、このまま同じことを繰り返していても私が全裸でなくなる日が来るとは思えない。けれどそれは楽しい選択だから、私は少しも苛々しない。 いっ