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アウフグースはエンタメだった。〜湯らっくす探訪記〜



思い切って「西の聖地」へ

人生初の野球観戦遠征旅行に行くことを決めた。
金土は福岡で野球、日曜は京都で宝塚記念。合間の宿泊を全てサウナ有名店で済まそうという、なんとも自分の趣味満載、欲にまみれた計画である。

野球で用があるのは福岡だが、熊本に「西の聖地」と呼ばれる場所があることは知っていた。本当にすごいのか。「聖地」と呼ばれるだけの理由をこの目で確かめたい。行きたい。すごく行きたい。
しかし、福岡から熊本は意外と距離がある。

しかししかし、約7,8年ぶりに訪れる九州という大陸。次いつ来れるかもわからない。

そう思ったときには、早かった。あっさり宿泊の予約を完了させていた。

ホームラン3発浴びたら、熱波を浴びたくなった

こよなく愛する千葉ロッテマリーンズの応援で、金曜は小倉の北九州市民球場、土曜日は博多のみずほPayPayドームへ。

2日間の試合内容は散々だった。

2ゲームとも敗北。2日間で3発のホームランを浴びた。相手がソフトバンクというのもあり、かなり悔しかった。

玄界灘で限界を迎える図

土曜の夕方。情けない贔屓球団のことは一旦放っておき、1秒も無駄にしたくないと博多から新幹線ですぐに熊本へと向かった。相手選手のホームランではなく熱波を浴びた方がもちろん気持ちいいのだ。

一見普通のスーパー銭湯

熊本駅から在来線で一駅。「平成駅」から徒歩5分ほど。
幹線道路沿いに、その店はあった。

〒860-0816 熊本市中央区本荘町722「湯らっくす」

外見は、普通のスーパー銭湯に見えた。
本当にここが、「西の聖地」と言われる場所なのか。

今にも大雨が降りそうな禍々しい雲が天を覆う中。いざその中へと飛び込んだ。

落ち着いた館内、その中で

ドミトリー宿泊で予約をしていた。名前や住所を記入し、館内の説明を受けた。

他とは違うことが、いきなり起こった。

大抵のシステムはよくある他の店と同じ(ロッカーがどこで的な)だろうなと軽ーく聞いていたが、いきなり「サウナシアターは宿泊者様無料でご利用いただけます、20時の回と22時の回がございますがいかがですか?」と。

・・・これか

存在は知っていた。
でも、どーせ行かないだろうなと思っていた。普通にサウナに入れれば十分だからである。さらに、超絶一般男子大学生が一人で入っていいところなのか。カップルとか、ご友人と来られた方たちが楽しむところではないのか。

いやしかし、しかしだ。本当にそれでいいのか。サウナシアターを体験せずに、湯らっくすの全てを体感したと言えるのか。

せっかく熊本まで来たんだ。ここは意を決し、堂々とフロントの方に「22時の回お願いします」と希望した。その証に、ライトグリーンのラババンを渡された。これが「シアターの入場券」替わりだという。

我慢できずに先にラーメンを

22時の回を希望したのには理由がある。腹が減りすぎていたからである。
食後すぐのサウナは身体的にもととのい的にもよろしくない。荷物を置いて、早いところお目当てのラーメン屋へ向かうこととした。

徒歩20分程度。位置的にも今考えれば、先に徒歩で熊本駅からこの店に寄って湯らっくすに行けば良かったのだが、「福岡ソフトバンクホークス周東右京選手の起死回生勝ち越しツーランホームラン」によって僕の脳は十分に破壊されていたため、思考力が低下していた。

黒亭。有名な熊本ラーメンのお店である。
名物のたまごラーメン大盛りに、足りないからとチャーハンまでつけてしまった。脳の破壊されっぷりがお分かりいただけるだろう。もちろん、満腹である。

たまごラーメン大盛り

いつ降ってもおかしくない天気だったが、運良く雨は落ちて来ず、無事に湯らっくすへと生還した。知らない地方の、知らない街の知らない住宅街を歩くというのは、ちょっぴりスリルがあるものであった。
この時点で時間は確か20時ごろであったと記憶している。

先に本体のサウナに入ってからサウナシアターかと考えていたが、案外時間がない。
ここはドミトリーで少しゆっくりしてから、先にサウナシアターへ行くことに決めた。
ドミトリーでは、翌日に控えた宝塚記念の予想で手一杯だった。

サウナでショーってどーゆー意味やねん

21時45分ごろに、サウナシアター集合の館内放送がかかった。
3階のドミトリーから、黒を基調とする大人な雰囲気の館内を降り、1階フロントの横にあるサウナシアター入口前までやってきた。

ネオンで輝く文字。『This is it』。このシアターの名称である。
なんでも、この施設の社長が、映画の道を目指していたことから、芸事との関わりを捨てきれずに、サウナとエンターテイメントを融合させた空間を作ってしまったとのこと。アウフグース以外にも、ざまざまな「芸」を披露できるらしい。

と、ここまで紹介をしたが、このときの僕はこの中で何が行われるのかさっぱりわからなかった。
『アウフグース』といえば、サウナ室内で決まった時間に発生するイベントのようなもの。
サウナストーンに水をかけ(ロウリュ)、そこから発生した蒸気を充満させるために「熱波師」と呼ばれる人がタオルを振り回したり扇いだりすることで、室内の温度が上がるというものである。

これの何がエンタメになるのか。
アウフグースは複数の施設で経験はあるが、僕にはわからなかった。
何やら、「アウフグース世界大会」なんてのもあるらしい。何を競っているのか。ますます謎が深まるばかりだった。

そんなことを考えている間にも、他のお客さんも続々と列を作る。
15人程度だったか。館内着のまま入るので、カップルや夫婦、友人同士など、やはり団体が多かった。常連さんと見られるソロ参戦の男性もちらほら。

そんな中、僕は一人で、多少の「スリル」を感じつつ入場した。

「キング・オブ・熱波」

シアター内は、通常のサウナより温度は低いものの、しっかり温まった状態。
あまり長くサウナに入れない僕は、しっかり最後まで耐えれるか心配だったが、ショー自体は15分程度で終わることがアナウンスされた。

そこに登場したのは、先述したアウフグース世界大会にも出場予定の「まなみん」さん。この施設の中でも有名な方らしい。ラッキー。

ショーが始まる。三種類のアロマ水(詳しくないので種類は失念)が用意される。
そして、照明が落ち、音楽が流れる。音楽が、流れる。


サ、サウナに音楽?!


音楽が流れると同時に、シアター中央のストーブに敷き詰められたサウナストーンにアロマ水がかけられ、蒸気がシアター中に解き放たれる。

その中で、熱波師まなみんさんがアウフグースを行う。
いや違う。シアターの中を「舞う」。

アウフグースといえば、大判のタオルを振り回したり、扇ぐことだけかと思いきや、そのタオルをコマのようにクルクル回す。

タオルと共にシアター内を「舞う」姿は、まるでフィギュアスケートの選手のようだ。

しかし、氷の上を舞うスケートの選手と正反対に、こちらはサウナの中。向こうが氷属性ならば、こちらは火属性だ。
こちらは座っているだけでも汗をかいているというのに、その中を舞い続けるのは、一人だけ違う空気を吸っているのかと思う。

三種類の音楽とアロマ。(そのうち一曲はRachel Plattenの『Fight Song』だった気がする。)見事に3曲を「踊り」きった、まなみんさん。

蝶のように舞い、鉢のように(熱波を)刺したサウナ界のモハメド・アリに、シアターのフロアからは惜しみない拍手が送られる。

これが『サウナエンターテイメント』か。


ショーが終わった後は、「アンコールルーム」と呼ばれる冷凍室へ。これがまた最高に気持ちがいい。

この施設の「名物」をこれでもかと体感し、いよいよ大浴場へと向かう。

ついに大浴場へ

宿泊コースの民は、一般のお客さんとは別の脱衣所が用意されている。
静かな脱衣所は心地が良く、お水は紙コップ付きで飲み放題。気のせいかもしれないがこの水が最高に旨かった。

ついに大浴場へ入る。これが例の水風呂、そして広々とした大浴場にサウナが三種類。

サウナシアターですでに汗をかいていたので(もちろん替えの館内着は2着目まで無料。)シャワーでしっかり汗を流し、一旦お湯で身体を温めてから、いざ、メインのサウナへ向かう。

温度については詳しくわからないが、しっかり熱されたサウナ。暗めでテレビがない空間は、しっかり汗をかける空間だった。

8分ほどで、汗を流し、いざ水風呂へ。水風呂は深ければ深いほど良い論者。ついに日本一深い水風呂に突入する。

いざ入って、深さよりもまず、水の違いに驚いた。

この日のコンディションもあるかもしれないが、水風呂の「嫌な冷たさ」を、全然感じない。

心地よい冷たさに、深さも相まって身体全体が包まれる。
羽衣(サウナセットの回数を重ねるごとに水風呂の冷たさを感じなくなること)とは違った、とげのない「優しさ」だ。


これが「水の違い」か。


先ほど飲んだ脱衣所の水の旨さが伏線だったのか。
熊本の水が、熱い自分を包んでくれる。

なんだこれは、最高じゃないか。

水風呂から出て、外気浴。
心地よい水風呂のあとの外気浴もまた、最高なのだ。

選ばれた漢だけが迎えられる夏

ととのいの中にいたら、サウナの前に人が集まり始めた。
そう、アウフグースイベントが始まる。

この日は休日。湯らっくすでは、土休日の男性サウナのアウフグースは、じゃんけんを勝ち抜いた(あいこでも可)、運を味方にした漢のみが体験できるのだ。

想像以上に集まる候補生たち。そうしても入りたい。どうしても勝ちたい。
「東京から来たんだ」と駄々を捏ねようとも一瞬思ったが、そんなことは口が裂けてもできない。

地球の裏側から来ようが、漢たちは今、じゃんけんの下に平等なのだ。

漢たちが列を作り、続々とじゃんけんを始める。前から順に行い、勝ちかあいこであれば楽園への切符を手にする。負けたら後ろに並び直し。

「めっちゃ前有利やん」と思いつつも、自分の番を待つ。こんなにドキドキしたじゃんけんは久しぶりだった。

そしてついに決戦のときがやってきた。

サウナに入りたい。
アウフグースを体感したい。

そんな強い気持ちを表した手(グー)は、あいこだった。

よかった。報われた。

これ以上ない喜びを抱き、中へと赴いた。

定員に満ち、サウナの扉が閉められる。
上の方は最後まで耐えれる自信がなかったので、最下段のストーブ前を陣取った。

熱波師は、「出口さん」。知っている。ここの名物熱波師さんだ。

そんな出口さんのテンションは超高い。「一足早く夏を迎えさせます!」と。

「あっ、このテンションなんや」

アウフグースといえば落ち着いた雰囲気で、ボソボソ喋る熱波師さんが黙々と熱波を回すというのがイメージだだった。

しかし、今の出口さんはその正反対だ。
当たり前のように音楽(水瀬いのり)を流し始め、「盛り上がってんのかああああ!」と僕たちを煽る。

その姿はまるで、オーディエンスを煽るロックスターのようだった。
そして自分もただのサウナ客からライブのオーディエンスにギアが変わった。

声をあげ、手をあげ、盛り上げる。サウナ室の中でこのマインドになったのは初めてだ。

先ほどのまなみんさんのように、出口さんも舞う。アニソンと共に舞う。

我々も声をあげ、手を叩き、熱波を浴びる。


これが『サウナエンターテイメント』か。(二回目)

ただでさえ気持ちがいい「サウナ」を、視覚的にも、聴覚的にも楽しませる。
湯らっくすが目指したサウナエンターテイメントは、これか。

ストーブ前であったこともあり、かなり温度は高かった。
終盤、ストーブに直接風を送るその「熱波」が直撃する。最高だった。
確実に普段とは違うアドレナリンが出ており最後まで体感できた。

間違いなく、熊本に一足早く「夏」が訪れた。
出口さん、最高でした。


「MAD MAX」

ショーが終わり、汗を流し、水風呂へ向かう。

これは今しかないと、こちらも名物である水風呂内の「MADMAX」のボタンを押した。
このボタンを押すと、ものすごい勢いで水が真上から降ってくるのだ。

大量の水が降る。気持ちがいい。ものすごく気持ちがいいのだが、十数年前の小学校のプール授業のシャワーが走馬灯のように駆け巡った。
いや、今考えればこれはガチ走馬灯だったのかもしれない。

そして例によって外気浴へ。
この興奮とリラックスのメリハリが最高ととのいを呼ぶ。

しかし、一般的に言われる身体的なこと(血管の収縮作用など)だけでなく、湯らっくすは心理的にもここのメリハリを演出してくれる。

一仕事終えた出口さんが、完成された我々に大きなうちわで風を送る。ここまでしてくれるのか。最高だ。

3セット目はメディサウナへ。タイミングよく貸し切り。
こちらはセルフロウリュができる瞑想サウナ。
それでもガンガンに熱された室内は、ロウリュの必要がないぐらいしっかり熱かった。(それでもロウリュするのだが。)

メディサウナを出て、汗を流し、もう一度MADMAXを浴びた。
もう走馬灯は流れなかった。最高に気持ちがいい。

身体を洗い、もう一度身体を温泉で温めて、脱衣所へ。
これが聖地か。本当に凄かった。


「聖地」と呼ばれる場所には、そう呼ばれる唯一無二の理由があったのだ。


謎のドリンク、「湯らぽん」

最高のととのいを体感した後は、水分補給が大切だ。

脱衣所の水も大量に飲んだのだが、それでも身体が水分を求める。
レストランへ行く。3階、階段を登り、ドミトリーと逆の右側だ。

酒弱なので、普段サウナ後の飲み物はオロポ(オロナミンCとポカリスエットを混ぜたもの)一択なのだが、その名称はメニューにない。

その代わり、同じような見た目で「湯らポン」という名前のドリンクが。
大昔の麻薬を連想させる名前。これが「オロポ」がわりなのか。ダブルサイズで頼んでみる。


合法ドリンク「湯らポン」

これは、これは・・・ほぼ「オロポ」である。
この弱炭酸がたまらないのだ。

先ほど大盛りラーメンにチャーハンまで付けて満腹だったはずなのに、腹が減る。
何を思ったのか、麻婆麺に小ライスを注文。罪悪感は、旅行中なので一切なし。

お味は、麻婆は良いのだが麺が乾麺ぽくて少々残念だった。しかし、美味しくあっという間に完食。
明日の競馬予想をしつつ、これを幸せと呼ばずになんと呼ぶ。

ああ、本当に熊本まで来てよかった。

至高の時間。出馬表に印が多いのはご愛嬌。


至高のリラックスタイム

麺と米、そして「湯らポン」を平らげ、時刻は0時を過ぎていた。
レストランも閉店し、リラックススペースで寝息も聞こえ始めた。

僕はロッカー前のワーキングスペースで、翌日に控えた競馬の予想を未だ進めていた。

天候の心配もあり、7時にはここを出て京都に向かわなければ行けなかったのだが、予想が難航し、結局ドミトリーに戻ったのは夜中3時ごろになってしまった。

「ドミトリー」という名前が表す通り、完全にカプセルホテルのように個室になっているわけではない。お隣との仕切りがあるだけで、上10パーセントぐらいは空いている。

幸い、お隣の方はずっと寝てらっしゃった。物音もなく、逆にご迷惑をおかけすることもなく、快適に過ごすことができた。

楽園を発つ

目が覚めたのは、6時ごろ。いつの間にか寝ており、いつの間にか目が覚めていた。

これは、もう一回ぐらいいけると、朝サウナへ。
時間もなかったので1セットだけ。
日曜日だからか。早朝だというのに、かなりの人がいた。

そして、ついに湯らっくすに別れを告げなければいけない時がきた。

本当に素晴らしい施設だった。「聖地」と呼ばれる所以を、これでもかと見せつけられた。

朝の湯らっくす

熊本まで足をのばす選択をした過去の自分を褒めちぎりたい。サウナ好きなら、ここのためにわざわざ熊本まで行くのも、損はしないはずである。

寝不足なはずなのに、最高の気分で熊本から京都へと向かった。


アウフグースは、エンタメだ。




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