迷子のお爺さん。
3社目の訪問を終え、職場へ帰る道中で一人のお爺さんが道路脇から飛び出してきた。血の気が引く。
バックミラーを見ないまま、急ブレーキをかけた。
幸い、お爺さんは無事だった。
また、後続車とは車間距離があり、後ろからの追突もされていなかった。
お爺さんを見ると、何やらもごもご喋っている。
え、もしかして当たってしまった?
と思って窓を開けると、「駅まで送ってほしい。」と言われた。
びっくりして思わず聞き返してしまう。
お爺さん、命がけのヒッチハイクだったようです。
狭い道路の真ん中で話を続けられる。
私はお爺さんをかわせないため、実質通せん坊されていた。
そのままでは危ないので、近くの空き地まで誘導する。「○○駅まで送ってほしい、家に帰りたい、こんな遠くまで来てしもうた。」と言っている。
うーんと悩む。
○○駅は職場とは真逆で、
この場所から車で片道25分ほどかかる。
それに、単純に警戒した。
知らない人に話しかけられても、付いて行ってはいけないし、知らない人の車に乗せてもらってははいけない、という何百回も聞いてきた忠告が頭によぎる。そして、性善説で生きていると痛い目にあうという自分自身の経験も。
自分が運転する車に乗せる場合も、ダメなんだろうか。
「いままで2人に話を聞いてもらったが、2人はどっか行ってしもうた。」
話を聞きながら、そりゃ逃げるわと思った。
だって平気で道路に飛び出してくるお爺さんなんて、車に乗せるには危なっかしすぎる。
「もう2時間もここにいて、日が暮れてしまう。」
タクシーなんて走っていない、両側が田んぼに挟まれた田舎道。そういえば、バスならある。この道、バスありますよね?と、たまたま近くにあったバス停を指さして提案した。
「北にしか行かへん。」
そうか、このお爺さんは北には何もないことを知っているのか。この市内で北というと、山か川の上流しかない。
どうしたものか。
まず、お爺さんを放っておくと、暗がりの中また道路を飛び出して事故を起こすリスクがあるし、事故に巻き込まれてしまった運転手さんの不憫な将来も考えうる。
また、お爺さんを車に乗せると、暴れ出して私が襲われるリスク、私のカバンの中にあるクレジットカードの入った財布と、携帯と、お客さんから預かった諭吉達が奪われるリスクがある。
いくつかのリスクを天秤にかけ、お爺さんは80代後半くらいに見えるし、暴れ出す気力も体力も無さそうだと結論づけた。
そして、私の判断のせいでお爺さんの命が危うくなるとか、見知らぬ誰かが社会的に致命傷を負うのは嫌だと思って、結局乗せることとした。
そのかわり、〇〇駅じゃなくて、ここから一番近いJRの駅までですよと釘を刺した。それでも構わないらしい。
駅に行けば、電車に乗るなりタクシーに乗るなり、どうにでも家に帰れるだろう。交番もあるし。
助手席に乗ったお爺さんが、
「やっぱり、都会の人は違うなぁ。」と言う。
あの、都会の人はこんな道通らないと思いますよと返す。ああやっぱり、お爺さんボケてる。
※2023.11.23 追記
迷子になっている認知症の方を見つけたら、警察に連絡することが一番正しい対応のようです。
発見が遅れるほど生存率が下がるとのことです。