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引き返そう!
もう40年ほども前の夏
休日に友人と沢登りをするつもりだった。
ところが天気が下り坂のようであきらめなくてはならなくなった。
それでもせめて山のふもとまで行こうということになり
三人で車を走らせた。
登山口で山を見上げると、空はまだ晴れていたが
湿った風が肌に吹いてくる。
もつれた糸のような雲が山の中腹を次々飛んでゆく
…まるで飛天のようだ。
これはだめだな。かなりな雨になる。
友人は、はるばる車でやってきていたから
「悔しいなあ」と言いつつ川の水に足を浸していた。
と、我々の横を三人の登山者が通り過ぎていく。
「登るんですか?雨になりそうですよ。」
「ええ」
三人は足早に山に入っていった。
沢は山の水を集めて流れ下るのだから雨が降ると増水して危険なのである。
数日後、山の知り合いと話していて
その日登山口で出合った人たちが
雨に降られてさんざんな目に遭いながら下山したことを聞いた。
知り合いはその3人を自宅から無線機でサポートしていたのだと。
「いやー、あなたがたは引き返して正解!」
山に限らず、引き返したほうがいいことは結構ある。
「ここまで時間もお金もかけたのに今やめたらもったいない」
自分でもそう思うし、人にもそう言われる。
でも自分の事なのだから、ここは自分の頭でよく考えなくてはならない。
これはもう、やりたくてやっているんじゃないな、とか
ホントにやる意味はなくなっているな、とか
ここ十数年、私は割とあっさり撤退している。
本当にやりたいことがそうたくさんあるワケじゃない。