「下午のまち銭湯~昼下がりの銭湯」 第三湯~錦糸町【黄金湯】
銭湯は昼下がりにいくに限る
昼下がりの錦糸町
錦糸町。ぼくにとってこの街はかつて仕事でよく通っていた街。なじみがある場所だ。この街を一言で表すのはとても難しい。
総武線の南口を出ると大きなバスターミナルになっていて錦糸町がどんな街かをたたきつけてくる。
右側にはヨドバシカメラがあって、向かいには演歌専門レコードショップがある。その隣は錦糸町といえばここ魚寅。都会駅前ロータリーで堂々と鮮魚を売っている。さらに道を挟んで向かいには丸井がそびえたっていてそのお隣はなんと場外馬券場だ。
もうカオス。整合性もなにもあったもんじゃない。
何でもかんでも詰め込んでしまえ。このごちゃごちゃした感じが錦糸町なのだ。
せっかくだ、甘いものを買っていこう。駅ビルの地下に降りてみる。デパ地下のようになってる。お目当てのものを見つけた。錦糸町名物『錦どら』。ぼくはどら焼きには目がない。要町の教訓があるので速攻で購入だ。
今回この街に来た理由は黄金湯。もともとこの銭湯はぼくのお気に入りでもあって、普通の 町銭湯でありながら加速する斜陽産業としての宿命を安易に受け入れることはせず、生き残るべくいろいろな工夫を試みていた意識高い系銭湯だった。
その黄金湯がしばらく行ってなかったうちに全面リニューアルしたということを聞きつけた。これはいかなければなるまい。
錦糸町を歩く
とりあえず北口に向かう。こっちもごちゃごちゃしている。
目の前には著名な外国のデザイナーが手掛けた芸術が爆発しまくっているモニュメント。右側には広大な錦糸公園の奥にこの街では新興勢力のオリナスがあって良く整理されている。
一方で左側は多種多様な飲食店が所狭しと乱立していてごちゃごちゃの境地に立っている。
この新旧二つの錦糸町が道を挟んでにらみ合っていてこれでもう訳が分からないが、そのすべてをでっかく聳え立つ東京スカイツリーが壮大なスケールで吹き飛ばしている。
オリナスの側の歩道をスカイツリー目指して歩いていく。オリナスを過ぎて道を渡ると徐々に住宅エリアになってきて駅前の騒がしさとガラッと雰囲気が変わる。目的の銭湯はすぐそこ。
黄金湯に着いた。
黄金湯
ええ!?これ?
驚いた。ぼくの知ってる黄金湯と全然違う。想像のはるか上をいくリニューアルっぷり。
まず見た目が銭湯じゃない。カフェのような出で立ち。じつにオシャンティー。なんかすごい。
暖簾をくぐって中に入ってみると、右に発券機がある。入浴料470円(90分)を購入してそのまま下駄箱に。すると一転。この下駄箱は妙に年季が入っている。松竹錠式のザ・銭湯使用だ。これはおそらく前のものを流用しているんだろう。
一瞬銭湯気分に戻ったのもつかの間、フロントがまたオシャンティー。アイリッシュパブのカウンターという感じでなんと奥にはビールサーバーまである。そういえば発券機に生ビールがあった。なるほど湯上りにここで一杯できるわけだ。
普通の銭湯の番台にはいなそうなヤングガールに下駄箱のカギを預けると、ロッカーキーをくれる。
入場。新築の建物特有の木の香りがむわっと鼻を刺激してくる。新しい。ロッカーはスーパー銭湯にあるようなタイプの木製の縦長タイプ。脱衣場はどっかのフィットネスジムかなぁと思うくらいまたまたオシャンティー。
ふと上を見るとおおきな暖簾がかかっている。この暖簾でフロントと脱衣所を仕切っている不思議な構造になっている。暖簾には大きく『お』とかかれている。
う~ん、お風呂の「お」かなぁ
服を脱いで。いざ浴場へ。
かららら~
おお・・・白い!
全体が白で統一された浴場だ。やっぱり目新しいなぁ。配置は右側の壁に沿って浴槽が三つと奥に一つの4つがL字に配列されている。左奥に扉があってそこがサウナの入り口。
壁画がまたまたまたオシャンティーで正面の壁の一部がコンクリートむき出しになっている。そこに墨絵風のモノクロ画が描かれている。中央壁あたりに銭湯らしく富士。その隣は江戸時代の生活風景や街並みだろうか。
前の黄金湯は古き良き町銭湯をベースにモダンな飾りつけでどことなく漂うアングラ感が堪らなく好きだった。でも、この未来的でクールな感じもこれはこれでいい。
この時ぼくは、なんだかよくわからない違和感を感じた。はて?なんだろう。
カランにはあらかじめ白い椅子がセッティングされていて、桶には湯のマークが描かれている。カラン数は15。体をしっかり洗う。新しくてきれいな銭湯なんだから自分もきれいにしなきゃ申し訳ない。
さてそろそろ入湯といきますか。
4つの湯船は壁側手前からジェットバス、薬湯、炭酸風呂で奥が水風呂。主浴槽は薬湯になるのかな?
しゃぽん・・・
とりあえず薬湯に。鮮やかな紫。細かなバイブラ仕様。本日はオリーブ湯とのこと。うんいい湯加減。
カコ~ン
浴場内に響く魅惑のエコーサウンド。リニューアルして様変わりしてもこの感じは変わらんよなぁ。すりガラス越しに差し込む日光が白い浴場内で乱反射。堪らない。やめられない。昼下がり銭湯。
そしてこの時ぼくは違和感の正体に気づいた。客だ。お客さんに年配のおじさんがいない。
平日の昼下がりだ。この時間帯の銭湯のお客さんはリタイヤ済みの近所の年長者と相場はきまっている。ところがここはどうだ。
みんな若い。全員若者だ。おかしい。何故だ。
よく観察していると、その答えが分かった。みな一応にサウナに向かっている。そうだ。このお客さんたちはサウナ施設としてここを利用しているんだ。
世は空前のサウナブーム。そしてここ錦糸町は複数のサウナ施設が点在する激戦区でもある。そういったこの地の潜在的な需要をがっちりと取り込んでいるのである。オシャレな見た目だけではない。銭湯として生き残るためのしっかりとしたプロセスがそこにはあったのだ。
薬湯を上がりお次は水風呂だ。いつものように交互浴を楽しむわけだが、ここでぼくは言いたい。この銭湯はサウナーだけでなく僕のような温冷交互浴愛好者にとっても最高の施設であると。
4つの浴槽の温度設定がそれぞれ絶妙に違うのだ。ジェットバスは熱い湯で44℃。薬湯が中温で40℃。炭酸湯がぬる湯で36℃。水風呂は19℃だ。水風呂と白湯の行き来だけでなく、これらを駆使して様々な温度差の組み合わせが楽しめるのだ。
これはいい。浴槽民族大移動開始だ。サウナに来たほかのお客さんを後目に、慌ただしく浴槽を巡る男。何度かの往来を繰り返し4つの浴槽すべてを堪能した。
締めは炭酸風呂。炭酸風呂があるってのも新しい世代の銭湯って気がする。ふと壁絵を見上げると昔の街並みの絵の中に煙突が描かれていた。そこには小さく黄金湯と書かれているように見えた。細かな演出。なんだか粋だね。
脱衣場に戻って服を着て髪を乾かす。ドライヤーは無料。そこに化粧水が置いてある。どこまでもオシャンティー。ふとみると「SNSフォロワーにはステッカー差し上げます」と書いてある。よし。もらって帰ろう。
フロントでカギを返却。スマホの画面を見せてステッカーをGet。
リニューアルしたけれどここは今を生きる新しい銭湯としてまたしてもぼくのお気に入りになった。銭湯の未来はここにあるのかもしれない。そういえば駅の向こうによく通ってた餃子屋があったっけ。久しぶりに行ってみるか。銭湯上がりに餃子とビール。最高にオシャンティーじゃないか。
銭湯の詳細
『黄金湯(こがねゆ)』[所在地]墨田区太平[最寄り駅]総武線「錦糸町駅 徒歩6分
[営業時間] 10:00−24:30、土曜15:00−24:30[定休日]第2・第4月曜[入浴料]470円
[サウナ]有料(平日)女性 +300円 / 男性 +500円(土日)女性 +350円 / 男性 +550円[ドライヤー]無料
※備え付けシャンプー、ボディソープあります
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