坂本龍一さんの名言とイギリスでの出版
イギリスでの報道
坂本龍一さん、亡くなられてしまいましたね。
イギリスでもBBCやガーディアンが報道していました。「革新的なポップスターになった前衛的芸術家」という感じで。
それぞれの思いを記されている皆さんのSNSでの投稿を見ていて、私もいろいろ思い起こしています。
例えば、私がイギリスに留学してきて来てすぐ、寮の友達の影響でこのCD(BTTB)を買い、半分以上の曲はあまり好みにあわないのですっ飛ばしながら、BGMの一つにしてコースの課題に取り組んだ思い出があります。
座右の銘になった坂本氏の「名言」
そして何よりも、彼が活動の拠点をアメリカに移した理由を表現していた言葉に私はものすごく共感しました。それは、
「日本という小さなマーケットでCDを100万枚売るよりも、世界の10カ国からそれぞれ10万枚ずつCDを売るほうが作品のクオリティーを落とさないで済む」
というものです。ほんとにほんとに私もそう思っていて、この名言は座右の銘になりました。
これは研究などのあらゆる分野において当てはまると思うのです。
私、エセックス大学で博士論文を執筆しましたが、大変だったんです、ほんと・・。ま、別に苦しんだのは私だけじゃないんですけど。PhDやってる人って、どんどん老けていくんですよね。老いが進むのが早い、というか。それだけ精神的にもきついんですよ。
そんな大変な時、私は「この論文は本になる。英語で世界のマーケットに出すのだ」と硬く心に決めて、自分を励ましながら取り組んでいました。
そして博士号取得後、複数のイギリスにの出版社にアプローチし、結果的にEdward Elgarという、英米にオフィスを構え、社会科学ではよく知られた出版社からOKがでました。もちろん出版費用は会社もち。
それからさらに数年かけてアップデート情報加えたりして書き換えて出版に至りました。ほんと、うれしかったです。
本の中身は? ー世界銀行、アジア開発銀行と人権ー
どんな中身?タイトルを日本語にすると「世界銀行、アジア開発銀行と人権ー 発展する透明性、参加、アカウンタビリティの基準」という感じです。
世界銀行って、ワシントンに本部があって、世界の189か国が加盟している世界で最も大きな開発機関です。一方、アジア開発銀行は、いわばそのアジア版で、67の加盟国からなりマニラに本部があります。特にアジア開発銀行って、日本の影響が大きいんですよ。だって、そのトップ(総裁)が設立以来、ずっと日本人。あの黒田日銀元総裁も、日銀に行くまではアジア開発銀行の総裁だったんです。
で、日本はどちらの開発銀行にも多額の拠出金を支払っているんです。その出所は、もちろん私たちの税金。それで、よい活動してくれるならいいですけど、中には、地元の環境を破壊したり、強制立ち退きが起きたり,と、人権の面から色々問題のあるプロジェクトもあるんですよね。
じゃあ、どうしたらいいのか?
はい、ぜひ 透明性、参加、アカウンタビリティ(説明責任)などの国際人権基準を守って活動してください、その基準とはこういうものですよ、という感じの内容です。
昨年12月に出版した『武器としての国際人権』でも、第4章でこれらの開発金融機関と人権の問題については簡単に紹介してありますので、関心のある方はご覧ください。
「世界がマーケット」の意味
新書のような一般書とは違って、研究書は値段もものすごく高いし、数がたくさん売れる本ではありません。出版社もそれが分かっているから、最初から高く設定するんでしょう。こういう出版って、いわば専門分野でのパスポートみたいなものですね。
例えばこの本、あの大英図書館にもちゃんと入ってるんですよ。世界の大学やいくつかの国際機関の図書館にも入っていて、検索すればちゃんと出てくるわけです。
実際、数か月前オーストラリアの名門Monash大学から、「あなたの本をいっぱい引用してPhD論文を書いた院生がいるので、審査員をお願いできないでしょうか?」という連絡まで来ました。
これが、坂本氏のいう「日本という小さなマーケットではなく、世界を相手に」ということなんだなあ、と思いました。
そういう名言も、すてきな曲も、もう聞けないのは残念ですけど、このインスピレーションを再度思い出して、これからも国際人権の世界で取り組んでいきたい、と思います。