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詩誌「三」76号掲載【怒り】正村直子

自分の機嫌は自分でとる とか
ちゃんちゃらおかしいね
目の前に座る女が言った
断りなく私のショートケーキを一口食べて
苺の果汁の残るフォークを私に向けてくる
女は初対面のようにも見えたし
昔から知っているようにも思えた
私とどこか似た風貌で
目はらんらんと見開いている
ショートケーキとコカコーラとピザポテトを机に並べて
お気に入りの映画を流す私だけのこの小さな部屋
私はじっとして
目の前のコーラの気泡がどんどんはじけて
消えていくのを見ていた
なんてちっぽけ
女が頬杖ついて笑った
今日という日を
曖昧に塗りつぶそうとする私を

2024年12月 三76号 正村直子 作

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