詩誌「三」74号掲載【時をかける人材派遣会社】飯塚祐司
本日はご多忙のところ、多くの方に説明会にお越し頂き誠にありがとうございます。後ほど改めて自己紹介致しますが、私本プロジェクトの責任者で本日の司会進行を務めさせて頂きます。短い時間ではございますが、どうぞよろしくお願い致します。
さて皆様は、ギフテッドという言葉をご存じでしょうか。ご存じの方も多いかと思いますが、大雑把に言ってしまいますと優れた才能を天から贈られた人、といったニュアンスとなります。しかし、この贈り物というものが実に曲者でして、贈られる側の立場によってその価値は変わって参ります。
簡単な例を挙げます。防寒性に優れた高級なコートを贈られるとして、雪国に住む人間と赤道直下に住む人間、一体どちらが喜ばれるでしょうか?言うまでもなく前者でしょう。しかし、天はそんな人間の都合には構ってくれません。赤道直下の人間に厚手のコートを贈り、雪国に住む人間にレースのドレスを贈る事もままあります。であるならば、そんな無用な長物を交換し、最大限の価値を発揮できるように調整する存在が地上にはあっても良いのではないか。本プロジェクトは、そんな理念の元スタート致しました。
ここからは具体的にお話ししましょう。ご存知の通り、弊社は創業者が開発したタイムマシンを所有しております。このタイムマシンを用いて、その才能が最も価値を持つ時代に人材の斡旋を行い、雇う側雇われる側共に最大の幸福を得る。それこそが我々に与えられたミッションとなっております。
お手元の資料四十八ページを御覧ください。こちらの青年は優れた剣才を持っていましたが、現代ではその技能を活かせる場所が限られており、思い悩んだ結果凶行に及ぼうとしたところをスカウト致しました。現在戦国時代のさる大名家に仕官して、その鍛え上げられた技を思う存分奮っております。
次のページの女性は見知った方も多いかも知れません。先に行われた女子サッカーの世界大会で大活躍した彼女ですが、実は平安時代の貴族の子女として生まれ、類稀な蹴鞠の才能を有していながらそれを披露する場所がありませんでした。そこで低迷する某サッカーチームの依頼を受けて斡旋し、今後益々の活躍が期待されています。
今も昔も洋の東西を問わず、人材の不足やミスマッチに苦しむ例は枚挙にいとまがありません。それらは同時代から探さなくてはならないという旧来の技術的限界によるもので、時代の枠を超える弊社の技術によってそのような不幸は解消されると確信しております。興味をお持ちの方には、この後担当より詳細をご案内致しますのでお気軽にお声がけください。
改めまして、私先日急死した創業者よりプロジェクトの責任者を引継ぎ弊社CEOに就任致しましたオダノブナガと申します。ご清聴ありがとうございました。
2024年6月 三74号 飯塚祐司 作