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詩誌「三」57号掲載【あなた】正村直子

 あなたが父親に冷水を浴びせられた時
わたしはこたつでアイスを食べていた
あなたが泣き叫んで助けを呼んだ時
わたしは世界がなくなればいいと歌う声を聴いてい

あなたの声を知ることなく
わたしはあなたの死を知った
ニュースのなかのあなたは笑っていて
わたしの頭の中ではうつろな目をしている

この世界のはじっことはじっこで
おなじギャグで笑ったことも
おなじ歌をくちずさんだことも
おなじ夕焼けををながめたことも
きっとあったのに

一月のしんと静かな朝
わたしはわたしとわたしの家族ために
ご飯を作る

2020年3月 三57号 正村直子 作

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