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小田急線で旅をして来た。

「次は終点、小田原、小田原でございます。」

時刻は6時57分。
車内は空いてた。


終点アナウンスを聞きながらモゾモゾと
尻のポジションを深く座り直す。


長旅と座席クッションの薄さで
やや腰がいたい。

「ふぅ~~」小さく息を吐き出して
ゆっくりと思考を再開する。

....

寝過ごした。


だが旅はまだ終わりではない。
終盤でもない、序盤である。

寝過ごした以上戻らなければ、町田に。
祖父母と実兄が待つ、東京郊外、町田に。

重い荷物と沈み切った気持ちを引きずり
一度下車をして、ホームの時刻表を見た。


折り返し電車は7時4分発
7分後だ。

一度ベンチに腰を下ろし
兄にLINEを入れよう。

「もし起きてたら町田駅、迎えに来てほしい🙏
到着は8時過ぎ予定」

青色の紙飛行機ボタンを押す

そして画面が真っ黒になった。 

0コンマ何秒かの時間で
2度目の絶望を悟った。
寝坊時の頭の回転は異常に速い。

電池切れだ。


終わった。
ポケット充電は持っていないし


何よりの不安はまだ眠気がある。
目は覚めたが疲労は抜けていない

これからまた1時間以上
電車に揺られなければいけない。
(まずい。非常にまずい。)


出発まであと2分。
とりあえず乗車して隅の席にもたれかかる。

電車が出発し窓越しに富士山が見えた。
朝からなんていい景色なんだ。

本当に富士山なのだろうか
これは夢か現実か正直自信がない。

........


「次は〜 下北沢、下北沢。」
目が覚めた時は車内は寿司詰め状態。


擦り切れたベルトと少しモッコリした
スーツパンツが視界を覆っている。


2度寝の目覚めには少々恐怖である。


東京の通勤電車のストレスレベルは
戦場の前線に匹敵していると

どこかの記事で
アメリカの心理カウンセラーが書いていた。

彼等は向かっているのだ。
職場という戦場へ。

今更もう驚かないが
また通過してしまった。


町田が遠い。

電池も気力もない戦士は一度前線から
離脱して休養を取らなければ。

駅員さんに事情を説明し(ただに寝坊だが)
駅から出してもらい一先ずガストへ向かう。


充電ができ薄くないクッションに座れることを
前職の営業マン時代に熟知していた。

コンセントにiPhoneの充電器をさし
リンゴのマークが浮かび上がるのを待つ。

画面に9:45の文字が切り替わると同時に
緑色の通知LINEが飛び込んできた。

兄への申し訳なさとは裏腹に
日本の電鉄を称えたくる気持ちもある。

始発で帰宅する電車の揺れ心地は
どんな高級マットレスも勝てまい。

「ごめん、今日朝から用事あるから
 迎えに行けない!🙏」

「バスで帰ってきて」

あぁ、よかった

もう、今日は時間という概念を忘れよう。

それが旅の醍醐味なのだから。

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