パワハラ指導を受けてプロになった選手とそうでない選手の違い
なくならないパワハラ指導
2019年シーズンに新たなオファーを受け、契約書にサインしました。強化部に所属し、チームの編成とトップチームのマネジメントが主な仕事です。クラブ名は公開しませんが、地方にある小規模なプロサッカーチームです。着任して数日後、アカデミー(U-18)の公式戦があることを知り、会場に足を運びました。アカデミーとは、トップ昇格を目指す小学生から高校生が所属するクラブの下部組織です。
私は保護者に混じって観戦しました。前半早々に先制され、監督の指示は徐々にヒートアップ。前半終了時、完全にゲームを支配される展開でした。そこで私は衝撃的な場面を目撃するのです。肩を落としてベンチに戻ってくる選手たちに対し、監督が怒りを抑えきれずペットボトルを地面に叩きつけたのです。驚きはそれで終わりません。隣にいた保護者が「監督、今日は機嫌悪いよ〜」と揶揄うように話しました。私にとっては衝撃的なシーンでしたが、保護者にとっては日常的で珍しくはない様子でした。
やもすれば、保護者には”熱血指導者”として肯定的に映っているのかもしれません。
パワハラを受けて育った選手像
根強く残る育成年代のパワハラ指導
かつて監督やコーチが指導と称して暴力や暴言を行うことは体罰と言われていましたが、近年「パワハラ指導」や「スポハラ」という表現が定着しています。JSPO(日本スポーツ協会)は2013年にスポーツにおける暴力行為等相談窓口を設置しており、その相談件数の推移を見ると年々増加傾向にあります。2020年と2021年はコロナの影響なのか減少を示しているようです。
データは相談件数を示すものであり、直接的にパワハラ件数を示すものではありません。10年前の報告書になりますが、公益社団法人全国大学体育連合が「運動部活動等における体罰・暴力に関する調査報告書(2014年)」の中で、運動部活動経験者3,638人に対して体罰経験の有無を調査しました。その結果20.5%、5人に1人の学生が「体罰経験あり」と答えています。果たしてこの数字は多いのでしょうか、少ないのでしょうか。
パワハラ指導を議論する際、指導者は加害者、子どもたちが被害者という固定概念は危険な側面をもつと考えています。私の学生時代の友人も、中学や高校で日々指導に励んでいます。強豪校で指導する者には、県大会優勝は当たり前、全国制覇が目標達成という大きなプレッシャーを背負っている者も少なくありません。その重圧とストレスは、監督を孤独に追い込み、押し潰されそうな毎日を送る指導者もいます。知らずとその状況に追い込んでしまっているOB会や後援会、保護者会が存在していることも事実です。ただそれはパワハラ指導を決して肯定する者ではありません。間違いなくあってはならない行為なのです。
パワハラ指導や体罰については、別の機会で深めたい実例をあげて議論を深めたいと思います。。興味がある方は、下のYouTube(参照:ABEMA Prime「チームを強化するために」パワハラ解任の横浜高校元監督の失敗とは?」)が興味深い内容をご覧ください。
パワハラ指導を受けてきた選手とそうでない選手の違い
日常的なパワハラ指導で育った選手とそうでない選手に違いがあると感じます。私はあると感じています。0か100かというものではありませんが、かなり強い傾向があると断言できます。それは種目に関係なく、さらには個人・チームスポーツにも関係ないと感じています。
簡潔にいえば、パワハラを受けて育った選手は「練習やチーム活動に対して受動的」という印象をもっています。一方でパワハラを受けてない選手は「練習やチーム活動に対して能動的かつ積極的」です。その原因は”課題を発見する力”と”問題を解決する力”に差があるように思います。このスキルはプロになって以降の選手寿命に大きな影響を与えるのです。
ペットボトルを叩きつけた監督の話に戻りますが、彼はなぜそれほどまで怒ったのでしょうか。自分のイメージしたとおりに子どもたちが動いてくれないからなのか、また子どもたちにやる気や勝とうとする気持ちが低かったからでしょうか。それともシンプルに負けているからでしょうか。監督本人にしかわかりませんが、自身で怒りの感情をコントロールできないほど憤慨していたのは事実です。それを見た子どもたちは当然恐怖心をもち、ミスを恐れるようになります。その結果、考えることを止めてしまい、ミスしないようにとプレイが消極的になるのです。
サッカーは正解を求めるには極めて難しい競技です。ただ監督は当たり前に戦術をもって指導に当たっています。戦術はあくまで勝つための手段と方法であり、なおかつ流動的です。「戦術=正解」となれば、戦術通りに動けなかった子どもたちが負けの原因という思考なってしまうでしょう。
ではパワハラを受けてない選手の共通点は何でしょうか。それは自ら考え、発信し、活発なコミュニケーションをもって解決に向けて徹底的に努力する習慣が身についています。その背景には、過去のサッカー人生でそれを許され、求められてきたからです。今起きている問題に焦点を当て、解決策を生み出し行動します。それが習慣づけられているかそうでないかの違いなのです。
この習慣の違いは普段の練習からみられます。毎日練習に来て与えられたメニューを消化してマッサージを受けて帰る選手。かたや練習前に徹底した準備を行い、明確な課題をもち、練習後にしっかり振り返って次に備える選手。前者は、プロになっても公式戦に出場できないまま2~3年で契約満了になる選手に多い印象です。一方後者は複数クラブへの移籍を経験し、10年以上プロ生活を続けることができる選手になっていくのです。子どもたちにとって、どういう指導者に巡り合うか極めて重要な問題です。
次回はパワハラ指導者について特性や保護者の対応方法について考察します。
ありがとうございました。