映画音楽の巨匠・モリコーネは、ハイリスクハイリターンの宿命
玉堂星に導かれたマエストロの幸せ vol.2
映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネが楽曲を手掛けた名作ギャング映画『ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・アメリカ』。パンフルートという楽器で奏でられる口笛のような音のメロディーが、映画の中で印象的に使われています。モリコーネの楽曲あってこその傑作映画であり、この映画によってモリコーネが持つ芸術の星・玉堂星(※)の運勢は大きく開かれることになりました。1984年、モリコーネが56歳となった年でした。
道徳的に非難された映画音楽
『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』など、36歳から38歳にかけて、誰もが一度は聞いたことがあるような名曲をモリコーネは生み出し、映画音楽界で揺るぎない地位を築いていきました。ところが、モリコーネは音楽大学を中心とするアカデミック音楽からは無視され続けたのです。
現在も音楽大学出身者が集まるコミュニティーでは、非音大系のミュージシャンはなかなか評価されないのが実情です。中にはあからさまに態度に出して見下す人もいますし、思ってはいても決して口には出さない人など、応対の仕方はいろいろあります。それは日本でも海外でも同じことのようで、モリコーネも同様の偏見に苛まれました。アカデミックではない商業的な音楽は、音大コミュニティーの中では全く評価されなかったのです。
商業音楽を作り続けるモリコーネ自身にも葛藤がありました。生涯の恩師となったゴッフレード・ペトラッシが「アカデミックな音楽家にとって映画音楽のような『商業的音楽』を作ることは道徳的に非難される」と考えていたためです。
映画『モリコーネ』では80歳を超えたモリコーネが涙を流して語るシーンがあります。「食べるためにトランペットを演奏するなんて、恐ろしいほど屈辱的だった。そして屈辱を感じるあまり、トランペットが嫌いに」(映画字幕より)。商業的音楽に携わるのは家族を養うため、食べていくため。ところが、すばらしい作品を作りながら本当に認めてもらいたい音楽院の友人たちからは、そっぽを向かれ続けたのです。
本領を発揮し始めた玉堂星
これはモリコーネの宿命の南方に位置する学問や芸術を得意とする玉堂星(※)が、自分自身の伝達本能を剋してしまっている現象といえます。しかし、モリコーネは何度も映画音楽から身を引くことを考えながらも、決して諦めることなく作曲を続けました。
そして『ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・アメリカ』が公開されると、モリコーネを無視していた音楽院の友人から謝罪の手紙が届くなど、ついにアカデミック音楽もモリコーネの才能を認めるようになったのです。モリコーネだけでなく、映画音楽という存在そのものに、地位が認められた瞬間ともいえるでしょう。どんなに剋されようとも諦めなかったモリコーネの玉堂星が、ついに本領を発揮し始めたのです。
玉堂星は陰の習得本能の星であり、師や書物から学ぶ、受け身の学習を得意とする特徴があります。映画の中でもモリコーネがおびただしい数の書籍に囲まれている部屋が登場します。また、モリコーネの師であるペトラッシは商業的音楽を非難しつつも、モリコーネのコンサートには足しげく通い、実は『夕陽のガンマン』などを高く評価していたそうです。映画の見る限り師弟関係は最後まで良好だったようで、このことも玉堂星の発揮を支え続けたといえるでしょう。
『ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・アメリカ』で音楽院の友人たちから認められたモリコーネですが、その後は「アカデミー賞」という舞台で剋される日々が続きます。50歳から72歳までの間に、5度もアカデミー作曲賞にノミネートされながらなぜか受賞できないという日々が続いたのです。
しかし、モリコーネは「映画音楽は10年後にやめる」などと何度も妻には言いながら、それでも作曲を続け79歳でそれまでの功績が称えられてアカデミー賞名誉賞を受賞。そして88歳の年に『ヘイトフルエイト』でついにアカデミー作曲賞を受賞したのです。あきらめずに続けることがいかに大事か、ということの証左といえるでしょう。
「相克」はハイリスク・ハイリターンの運勢
前回も説明しましたが、水が火を消すように玉堂星(水性)が伝達本能(火性)を剋してしまうモリコーネのような宿命だと、まるで悪いことのようにとらえる占い師もいますが、もちろん、そんなことはありません。宿命に良いも悪いもないのです。どのような宿命にも必ず、メリットデメリットがあります。
相剋(そうこく)の宿命(例:水と火)はハイリスク・ハイリターン、相生(そうしょう)の宿命(例:木と火)はローリスク・ローリターンである、とも言えます。相克は苦労が多い分、何かを成し遂げた場合はリターンが大きい、しかし相生は苦労が少ない分、何かを達成したとしてもリターンは小さい。相克と相生はそのような関係にあるのです。ですので相生の関係で大きなことを成し遂げようとする場合は、意図的にでも大きな負荷をかけることが必要となってきます。
「玉堂星」に着目してモリコーネの運勢を見ましたが、その人生は本当に自らの宿命を生かし切った人生だといえると思います。「この宿命ならば、こう生きれば幸せになれる」という手本となるような人生です。
またの機会に玉堂星以外の部分でも、“マエストロ”として世界中で愛されたモリコーネの人生を見たいと思います。
※)玉堂星が持つ特性
陰の習得本能。師や書物から学ぶ、受け身の学習を得意とする。完璧を求める性向がある。論理的、知性的、伝統的、古典的、懐古趣味、緻密、繊細。
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