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私の100冊④~ライトノベル篇~

私の100冊を続けていきます。④は10月中に出そうと思っていたのになぜこんなことに。前回の記事はこちらです。



今日はライトノベル篇です。ライトノベルの定義は古典の定義より難しいです。ここでは俺がライトノベルだと思ったものがライトノベルだ、ということでよろしくお願いします。何冊も続いているものが多いですが、毎回「〇〇シリーズ」と書くと見づらいので避けました。


22.”文学少女”(野村美月、エンターブレイン)

物語を食べてしまうくらい愛している文学少女の天野遠子と、今はただの高校生になった元覆面美少女作家の井上心葉(男性です)を主人公に描かれる学園小説……でいいんでしょうか。キャラクターがとても魅力的で、読んでいて楽しい小説です。シリーズがそれぞれ別の小説を下敷きに書かれていて、第1作のモチーフは太宰の『人間失格』です。古典をモチーフに新たに小説を書くのはものすごく大変だと思いますが、古典に負けることなく、ないがしろにすることもなく、見事に仕上がっていると思います。もちろん第1作も面白かったんですが、第2作のクライマックスシーンで「マジか!このシリーズ絶対最後まで読もう!」と誓ったのでぜひ読んでほしいです。


23.ゴクドーくん漫遊記(中村うさぎ、角川書店)

これはライトノベルとしてはかなり前に出た小説です。中村うさぎさんは今はエッセイで知られていますが、その中村うさぎさんが書いたドタバタコメディです。ピカレスク・ロマンといったらいいでしょうか、主人公のゴクドー・ユーコット・キカンスキー(すごい名前だ)があちこちで欲望のままに行動します。主人公のゴクドーは「お前はロクな死に方をしないな」と言われて「俺の死に方まで心配してくれなくていいからよ、さっさと金を払いな!」と答え、「お前が俺に人を疑うことの大切さを教えてくれたんだよ」と嫌味を言われて「へえ、だったら授業料をもらわなくちゃな」と答える人ですからね(これは記憶に基づいて書いているので細部が違っているかもですが)。すごい。生のエネルギーが満ち満ちていて、めちゃくちゃですけど楽しいです。これは実はシリーズ外伝がありまして、外伝はけっこう内容が暗いです。ただ、本編も外伝も「自分できちんと考えて、自分の生きたいように生き、その責任は自分でとれ」というメッセージが通底しているような気もします。


24.キノの旅(時雨沢恵一、KADOKAWA)

人間キノと、言葉を話す二輪車エルメスが色々な国を旅する話です。もはやライトノベルの古典といってもいい位置にあると思います。様々な習慣を持つ国があり、旅人であるキノはわずかな日数だけ滞在してまた去っていく……それが続いていきます。キノは基本的に静かな人で、それぞれの国に対する批評的なことはあまり言わないのですが、読者は「この国はいいな」とか「この国はちょっとやだな」とか考えることができると思います。そして「人間って何だろう」と考えることになるでしょう。「人間って何だろう」と読者が考える小説は、いい小説。絵本のような静かな物語です。


25.灼眼のシャナ(高橋弥七郎、KADOKAWA)

「少年少女が突然巻き込まれた運命に抗って懸命に生きようとする」ストーリーはライトノベルに限らず物語の王道だと思います。このシリーズはその王道を行く作品です。著者がプロの作家である以上「うまい」は褒め言葉にならないかもしれませんが、それでもこの小説はまず文章がうまいと言いたい。ストレスなく世界に入り込んでわくわくできるのはやはり大きな魅力です。登場人物もそれぞれの生き方をそれぞれのスタイルで選んでいて、どの人物を好きになるとしても他の人物の生き方も魅力的に感じるはずです。脇役たちが主人公を輝かせるためのおまけではなく悩んだりもがいたり楽しんだりしながら自分の人生を歩んでいるというのは、小説を読むうえですごく大事な要素です。この小説は人物の息遣いが感じられるところが好きです。


26.星界の紋章(森岡浩之、早川書房)

突然異星人(?)に母星を侵略されて星間帝国の貴族にされた少年の冒険を描いたスペースオペラです。この小説は人物同士の会話にユーモアのセンスがあってかっこよくて、読んでからだいぶ時間が経った今でも覚えているものがたくさんあります。星間帝国の国家観も作り込まれています。「国とは何か」を考える時に参照する現代日本の小説としては『銀河英雄伝説』や『十二国記』が挙げられることが多いですが、本書もそれに比肩するものだと思います。


27.小説ドラゴンクエスト5(久美沙織、スクウェア・エニックス)

ゲーム「ドラゴンクエスト5」の小説化です。ドラゴンクエスト5は主人公の子供時代から始まって、大人になって、結婚をして、子供ができて、冒険を続ける物語なのですが、本書は原作を生かしつつ小説オリジナルの要素を生かしていて、傑作だと思います。忘れ難いシーンがたくさんありますが、とても印象的に書かれているのはスライムナイトのピエールです。主人公の母のマーサが若いころにピエールと親しくて、そしてずっと時間が経ってからピエールは母を取り戻すために旅をしている主人公と出会い、ともに旅をするんです。文庫版のあとがきも印象深く、「主人公が伝説の勇者ではなく、モンスターと心を通わせる青年である」ことがとても深く納得できるものになっています。


28.Fate/Zero(虚淵玄、星海社)

Fateシリーズの一角をなす小説です。このシリーズは「どんな願いもかなうもの(聖杯と呼ばれる)を手に入れるために過去の時代の英雄と現代の魔術師がタッグを組んで別のタッグと戦う」というのが基本のコンセプトだと思われ、本書もその流れの中にあります。主人公のひとり衛宮切嗣は功利主義を具現化したような人物で、「多数の人を救うためには少数の人間が犠牲になっても仕方ない。そこに自分の愛する人が含まれているとしても」と考えています。本書のすごいところは切嗣を血も涙もない計算機械ではなく、激しい感情を持った人間として描いているところだと思います。他の人物もそれぞれに苦悩を背負っていたり人格が突き抜けていたりして夢中になって読みました。私が「マジか、この小説すごいな」と思ったのは間桐雁夜の結末です。ぜひ見てみてほしいです。


100冊に辿り着くのいつになるだろう、という気がしてきましたが、よければおつきあいいただけたら嬉しいです。ではまた次回。

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篠田くらげ
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