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それはたとえば夢のような
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月から出た人
「夜景画の黄いろい窓からもれるギターを聞いていると 時計のネジが
とける音がして 向こうからキネオラマの大きなお月様が昇り出した ~ 」ではじまる稲垣足穂の「一千一秒物語」(新潮社)
(この作家のこの作品については以前にも取り上げていますが)
ハイパースラップスティックコメディとでも言ったらよいのでしょうか?
ショートショートの元祖? とっても短いコントが70篇(改訂版)
それは月や星が登場し巻き起こすドタバタ劇なのですがそれらが妙に洒落ているのです。 まるで魔術師? のような作家の醸し出す童話?
異次元の玉手箱!? ガチャ?
松村実の解説によると
佐藤春夫は愛弟子の処女作品集に「一千一秒物語」のタイトルとともに
「童話の天文学者ーセルロイドの美学者」との序文を寄せています。
また芥川龍之介は「大きな三日月に腰掛けているイナガキ君、本の御礼を
云いたくてもゼンマイ仕掛の蛾でもなけりゃ君の長椅子へは高くて
行かれあしない」と、その厚意を寄せています。
セルロイド、ゼンマイ!?
そうなのです、たとえばタルホ(コアなひとはこう呼ぶのです)の月は
ブリキ製ですし、街はボール紙細工だったり・・・なのです。
芥川龍之介はまた「誰にも書けるというものではない」とも言っています。
捉えどころのない多元世界? のタルホワールド!
この名作!が発刊されたのは1923年。
(今やタルホを読んだことがない、否、知らない世代が多いのでしょうが)
硬質で抽象的でメタリックで体温は感じないのですがなんとも摩訶不思議な
それはたとえば夢のような詩的小宇宙がそこにあると想うのです。
そしてこんな独壇場を創造できたならどんなにか素敵なことだろう、と
想い続けているボクがいます。
この異端の美学者は江戸川乱歩とともに少年愛と男色研究の先駆者でも
あったのですが、乱歩の書斎である薄暗い土蔵で密かに? 語り合う
ふたりの奇人 の様子を遠くから想像するにつけ何だか愉快な心持ちさえ
覚えるのです・・・