幸福な王子とクリスマス
オスカー・ワイルドの童話集の中で最も知られているであろう作品
「幸福な王子」
この物語は自分を犠牲にして人々に幸福を分け与えた王子(正確には王子の魂が宿った像)と、やはり自分を犠牲にして王子のために献身的に働く
ツバメの話で一般的にはたぶん「博愛」と「美しい自己犠牲」が称えられているような作品でしょうか。
ボクはこの作品の背景にクリスマスがあったように想っていたのですが、
実はこれは思い込みによる勘違い。
それは王子に求められて彼の両目の青いサファイアや腰の剣に輝く赤い
ルビー、そして体を包む金箔をツバメが町の貧しい人々に持って行く
という行為がサンタクロースがプレゼントを届けるのと重なったからに違いありません。
ツバメと王子との会話の中で「もう冬です」「冷たい雪がまもなくここにも降るでしょう」とツバメが言うにとどめられておりその日その時は明確ではないのです。でもやはりボク的にはクリスマスを感じてしまうのですね。
この作品のストーリーをこと細かく記す必要もないとは想いますが、
あらためてこの作品について考えさせられてしまいます。
この話、王子は善意の象徴そのものなのでしょうが、ツバメに関しては
わりと複雑な心情が描かれていて、それは自分の事情(冬が来る前に暖かいエジプトへ飛んで行かなければならない)からけっこう揺れ動くのです。
が、しかしツバメは王子と運命を共にする覚悟を決めて働き、やがて衰弱し最後の力をふりしぼり飛び上がり王子にキスをして力尽きます。
その瞬間、王子の鉛の心臓が音をたてて割れるのです。
キリスト教文学ともいわれるワイルド文学。
プロテスタントの家系ながらカトリックにあこがれ、キリストの生き方に
共感しつつも、当時の教会制度や聖職者には批判的だったそうです。
芸術至上主義と宗教意識の矛盾。彼の持つ対立する二つの思想のなかで
ワイルドはこの作品に何を仕掛けたのかな・・・
彼がたくみに調合する毒薬・・・ そんな感触が残るのです。
(あくまでもボクの主観です)