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茶々門 綾
2019年11月8日 23:37
はじめてそれが置かれていたのは、去年の冬だ。かなり冷え込む夜だった。俺が日雇いの仕事を終えて、寝床にしている公園のベンチに帰ると、見慣れないものが置いてあったんだ。 空き缶だよ。缶詰とかが入ってる口の広い缶に、雪が山盛り盛られてた。勿論ゴミだと思って捨てたさ。 だが、次の日も次の日も、全くおんなじものがベンチに置かれてる。こりゃ誰かが意図的に置いているとしか思えない。明日も置かれ
2019年10月12日 19:23
あたりは真っ白な靄に包まれている。しかし、寒いという事はない。けれども暖かいというわけでもない。強いて表現するのであれば「快適」という言葉が適当だろうか。どちらにせよ此処は、そんな概念とは無縁な場所であるように思えた。次第と頭がハッキリしてくる。そうだ、私は死んだのだ。という事は、此処は死後の世界という事で間違いないだろう。 私はかつて勇敢な軍人であった。自分で言うのもおかしな話だが
2019年10月6日 17:39
「しかし、こんなご時世なのに仕事にありつけて、ほんとよかったな」「ああ。失業支援制度のお陰だよ。一体何人の労働者が救われたことか」 公園のベンチに二人、労働者風の男が並んで座っている。 「所でお前は今どんな仕事をやっているんだ?」痩せこけて、落ちくぼんだ目をした男が聞いた。 「リンゴをハ当分に切るだけの作業さ。そんなにやり甲斐のある仕事ではないよ」 それに対し、無精髭を生やした
2019年9月29日 23:14
少年はありきたりな朝を迎える。16か17か、そこらの少年。場合によっては青年と表現しても良いやもしれない。ただ、先ず結論から述べておくと、この少年は決してありきたりではない。もちろん見て分かる通り、少年自体は普通の少年だし、身体や精神に特異なものがあるというわけでもない。彼の、生い立ちというか、そういうなにかが特殊なのだが、その異変もまたつい最近起こった出来事であった。少年は着替えを済
2019年9月22日 23:56
「つまり、寝相がとても悪いからそれを治して欲しい… と」白衣の男がカルテを片手にそう問うた。「はい」「しかし君ね、人間寝ている間多少は動くものなのですよ。寝返りが多いくらいの方が健康ってなもんですよ」「いえ、寝返りとかそういう可愛い問題じゃあないのですよ。起きたら全く知らない場所にいる、というような事が度々あって……」「ほう、では夢遊病というやつでしょうな」「そういうわけでもないんです