滞在日誌 2023/1/11(7日目)
4日間あった1月の滞在は、この日が最終日。全滞在期間15日間のうち、半分が終了したこのタイミングで、額田さんへのミニインタビューを行いました。
様々なことを経験して思考するという段階から、取捨選択したものを磨き上げていく段階へと移っていく中で、これまでの滞在を振り返りながら、今後のアイディアなどについても伺うことができました。
聞き手:米原晶子(プログラムディレクター/NPO法人アートネットワーク・ジャパン)
ー滞在が折り返しを迎えますが、前半はどんな時間になりましたか?
レジデンスプログラムの時間の流れ方を、楽しむことができました。ボランティアの方や美術館のスタッフの方など、どういう人たちがこの美術館を大事にしているかが分かってきたのが面白かったです。劇場や稽古場などと違って、さまざまな方が世田谷美術館という場所そのものに愛着を持っている、ということが次第にわかってきました。
ー美術館で出会った人の印象はいかがですか?
みなさん落ち着いていて、ゆっくり歩いていますね。前後の予定に追われていないというか、目的意識を持ってこの場所に訪れている人が多い印象です。駅前や観光地にある美術館とは対照的な雰囲気を感じています。
ー滞在前には予測していなかった出来事や感じたことはありましたか?
美術館には、思ったより多くの人がいますね。平日も、賑わっていると感じます。また以前は、家から自転車で来ることが多かったので、意外と最寄駅の用賀からは遠いということにも気づきました。展示を観に来る人だけでなく、世田谷美術館美術大学の受講生やボランティアの方がいることも知り、この美術館にはいくつもの関わり方があることが分かってきました。色々な人が出入りできる美術館だということが興味深いですね。
ー確かに、ボランティアの方やインターン、オープンデーに参加してくれた方など、多くの人とコミュニケーションしてきましたね。人と交流する時間が思ったよりも多かった印象でしょうか?
確かに交流の時間は多かったですが、元々、人とコミュニケーションをとることで創作が進むタイプなので、とても助かっています。
ー活動や表現の手法について語っていただく機会も沢山ありましたね。今回の滞在期間中に、自分の創作についての表現など、試して手応えがあった言葉などはありますか?
具体的な言葉というより、「音を聞く」という原始的な体験のおもしろさを年代を問わずきちんと伝えられる、共有できるということがわかったのは発見でした。これまで接点がなかった年代の方との交流ができたという点が経験として大きかったと思っています。
ー前半の滞在では、聴覚と視覚の関係性という人間の根本的な感覚に対して、正面からアプローチしてきたという印象です。そのような人間の知覚に対する意識や興味はどこからきているのでしょうか?
元々、音を出す身体とか演奏している身体と、その音の関係性に興味がありました。同じ音でも、同時に見えているものが違うと聞こえ方が違ってくる、といった現象に昔から興味があるんです。聞いている音と見ているものをリンクさせる人間の習性そのものが面白いと思っていて、それは人間性という意味で、個々人の内面にも深く繋がってくるテーマだと思っています。
ー視覚という点でいうと、美術館は美術作品を鑑賞する場でもありますよね。滞在アーティストとして、繰り返し展示を観る体験を通して感じたことはありますか?
当たり前ですが、展示空間は視覚に特化するように作られた空間なんだなと思いました。同じように、音を聞くために創られた空間や状態というものもあるはずで、空間や状態から作られる音というものもあるはずだなと考えました。
ー展示室はやはり特殊な空間と感じたのでしょうか?
美術作品を見せるために作られた空間、という意味ではそうですね。ただ、それぞれの時代で求められた展示室のあり方が違っているのかもしれない。これまで活動をしたことがある美術館の中では、世田谷美術館が一番歴史が長い美術館なので、余計にそう感じるのかもしれないですね。
ー滞在の序盤は、リサーチの分析や論考を最終のアウトプットとしようと考えた時もあったと思いますが、今はパフォーマンスや作品の創作を計画しています。その変化はどこから生まれたものでしょうか?
プログラム上は、作品創作をしなくても良いと言われましたが、単純にやりたいなと思うようになりました。やっぱり自分が一番自信を持って創ることができるのはパフォーマンスなので、最終のアウトプットはパフォーマンスにしてみたいと思っています。
ーそれはつまり、このレジデンスで経験したり考えたことを、パフォーマンスを通して誰かと共有できそうだ、という手応えがあるとも言えますか?
そうですね、やれる未来がなんとなく見えたという感じです。だからこそやってみたい。
ーPerformance Residence in Museum だからこそ挑戦しようと思っていることはありますか?
発表の場として、これまであまり経験してこなかった美術館でやるからこそ、ジャンル横断という点を意識しています。即興演奏や現代音楽のシーンでも活躍するアーティストに出演してもらい、普段の活動では挑戦できない部分に迫ってみたいです。受け取った人の疑問や思考を喚起するような実験的な音楽を通して社会とどう繋がっていけるか、ということを常に考えて創作をしているのですが、そのためには自分がいろんなチャンネルを持っていることが必要です。今回も、そのチャンネルをまた少し広げることができるチャンスになればと思っています。
ーきっと、音楽と演劇を往復しながら活動を続けていることにも繋がっていきますね。
そうですね。音楽も演劇も、やっていること自体は同じように見えるのですが、やっぱりかなり違うところがあると感じていて、だからこそ自分は両方を続けています。歩んできた歴史、そこに集っている人の思想や使う言葉も違うからこそ、両方を行き来することに意味があると思っています。
ー美術館に集う人たちは、劇場やライブハウスに集う人たちと共通点もあるけれど、違いもありますよね。だからこそ、美術館でのパフォーマンスではまた新しい額田さんの一面を見ることができそうです。これまでの滞在では、関心の赴くままに動き回っていた印象があります。美術館は静的に過ごすことができる空間の充実に目がいく場でもあるけれど、動き回る額田さんから世田美の空間の楽しみ方を発見させてもらいました。これからの滞在後半で、さらに額田さんの考えが深まり、また変化していくのを楽しみにしています。
はい、自分自身も楽しみにしています。
2023年1月11日 世田谷美術館 講堂にて
次回の滞在は2月の8日(水)、9日(木)です。インタビューでも触れられていた、パフォーマンスに出演するアーティストもいよいよ合流となります。
ここから額田さんの思考がどのように展開し、パフォーマンスとして結実していくのでしょうか。楽しみです。
テキスト:武田侑子(NPO法人アートネットワーク・ジャパン)
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