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国際バカロレアの教育から学ぶ14:概念型カリキュラム

「国際バカロレアの教育から学ぶ13」では、国際バカロレアですすめられている「指導のアプローチ」をご紹介しました。
今回は、その中の一つ、「概念理解に重点を置いた指導」についてまとめてみます。

「概念型の学習では、各教科や教科横断的な領域において関連性をもつ、有力な考えを体系化することを重視」しています(国際バカロレア機構, 2022, p. 16)。

国際バカロレアでは、リン・エリクソンの「概念型カリキュラム」の理論を参照しています。
エリクソンは、事実やスキルを機械的に「カバー」するのではなく、生徒が教科の最も重要な概念的理解にたどり着くことができるよう、知識とスキルの学習に概念的思考を組み合わせることを提唱しています(エリクソン他, 2020, p. x)。

「概念型カリキュラム」は、生徒がいま生きている現状や問題について調査したり、教科間のつながりや関連性を見出したりすることができるとされています。
エリクソンは、「概念」を「レンズ」に例えます。「教師は、概念レンズを使って、現在取り組んでいる学習に自分自身の思考をもち込むよう」生徒にはたらきかけることができます(エリクソン他, 2020, p. 17)。

「概念型カリキュラム」の具体例は、次のように示されています。

 概念レンズがどう機能するか、例を見てみよう。ジャネット・カドゥチェ(Janet Kaduce)先生は、高校の授業でホロコーストについての単元を教えている。生徒には、人道と非人道の2つの概念レンズの観点から、ホロコーストを考察するよううながしている。
 この概念レンズが原動力となり、脳内では低次処理センターと概念処理センターの間で相乗作用が始まる。事実を人道と非人道という考えとの関連性から吟味しなければならないため、必然的に生徒は深く考えることになる。この知的相乗作用を起こすため、ジャネット先生は、指導全般にわたり思考をうながす問いを発していく。概念型教師は、3種類の問い(事実に関する問い、概念的な問い、議論を喚起する問い)について学び、生徒の思考が具体的なトピックや実例からより深い概念的理解にいたるよう、指導をとおしてこれらの問いを柔軟に使う方法を身につける。(中略)この授業で使えるいくつかの例を見てみよう。

事実に関する問い
なぜホロコーストは、世界史において重要なできごとだったのでしょうか。ナチスの行動を駆り立てたのは、どのような信条からでしょうか。
どのようなできごとが、ヒトラーの権力の台頭をもたらしたのでしょうか。

概念的な問い
経済、政治、社会的状況は、どのように人道的視点と非人道的視点を形成しますか。
沈黙がしばしば非人道的行為に寄与するのは、なぜでしょうか。
個人の信念、価値観、意見は、人道的視点と非人道的視点にどう関わっていますか。

議論を喚起する問い
人は人道的であると同時に理性的であり得るでしょうか。(あなたの答えを説明しなさい。)

(エリクソン他, 2020, pp.17-18)

概念型カリキュラムを実践してみると、生徒は探究的な学習の中で、様々な知識を関連づけながら、自分の考えや価値観に気づくことようです。そしてクラスメイトの考えから、多くのことを学ぶことができます。

引用文献
国際バカロレア機構(2022)『MYP:原則から実践へ』国際バカロレア機構.
H・リン・エリクソン、ロイス・A・ラニング、レイチェル・フレンチ著、遠藤みゆき、ベアード真理子訳(2020)『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践―不確実な時代を生き抜く力』北大路書房.


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