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夏の訪れと猫。

窓の外を見やると、なんだか妙に鮮やかだった。空のあおも、木々のみどりも、とつぜん輪郭がくっきりしていた。

あっ、来てたのか。はっと顔を上げたらもうそこにいた、夏。なんだ、来てるんならそう言ってくださいよ、もう。急にきた来客と鉢合わせたかのように、慌てて身づくろいをする。靴下を脱ぎ捨ててサンダルを履き、初めて羽織ものをもたず半袖で外出をする日。

季節はいつも気づかないうちにそこにいる。その感じは何かに似ているなあと思ったら、うちの猫に似ているのだった。音もなくそっと足元にやってきて、静かな目で見上げている。私は猫に気づくのではなく、猫がやってきた部屋の空気の微かな変化、色も重みもないやわらかな何かがそっと置かれたような気配で、猫がそこにいることに気づくのだ。

目が合って、猫がにゃーんとなく。窓の外に風が吹き、夏の光が音をたててこぼれる。季節の訪れと猫が似ていることに初めて気づく。

(2021. 6.10)

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