飛車落ち定跡の最新形?でプロ棋士に挑んでみた(青嶋未来六段 指導対局)
ねこまどさんのイベントで青嶋未来六段のオンライン指導対局(4面指し)を受けました。筆者の棋力は将棋ウォーズ三段、将棋倶楽部24で1950点(三段)です。指導対局の経験としては、某現役七段の先生に飛車落ちや角落ちで年に2~3局教えていただく程度です。が、このご時世で対面での指導対局がしばらくご無沙汰になってしまったため、今回、オンラインのイベントに申し込んでみました。
■戦型をどうするか(対局前)
もともと指導対局で教えていただく機会が少なく飛車落ちの定跡をあまり勉強してこなかったので、事前に下手(したて:駒を落としてもらう側)の戦法を調べてみました。すると、
・上手(うわて:駒を落とす側)が止めた角道を争点にしていく右四間飛車が有効
・ただし、下手が銀冠に組むのは、手数がかかるのと玉頭に争点を作りやすいことから、疑問
・代わって、下手の囲いは金無双かエルモ囲いが有力
ということが分かりました。
(参考)飛車落ち右四間定跡、将棋AIの評価値で判明した銀冠のワナ(将棋棋士 遠山雄亮のファニースペース)
近年ではAIの功績も大きく、平手の定跡は日進月歩の進化を遂げています。一方、駒落ちの定跡はその性質上、AIによるアップデートがなかなか行われにくいので、このように古典的に良しとされる定跡に異を唱えていただけるのはありがたいですね。
また、右四間飛車以外の戦法として、
【飛車落ち新戦法】野獣榴弾砲特攻銀 (将棋世界2020年7月号付録)(Amazon)
も読みました。”野獣流”泉八段による構想25年の秘策ということです。攻めっ気溢れる鳥刺し風の作戦で、これで決まれば話が早い。しかし、手元の将棋ソフトで検討してみたところ、
・上手に正確に対応されると自玉が薄く、反動が厳しい
・下手が角道を開けないのはAI的に疑問
・仕掛けまでの局面の評価値は、実は初形よりも悪い
ことが分かり、下手にとっていの一番に覚える定跡ではないと考え、今回は見送りました。
(参考図:△4二角とした局面)
AI相手に鳥刺しを狙うと一例では上記のような形になりますが、ここでのAI推奨手は▲5八金や▲7六歩などで、評価値+750~800点程度。初形が+850点強なので、わずかにリードを減らしています。AIの候補手を見るにここから一気の攻めも成立しないということなので、下手が指しこなすのは容易ではなさそうです。
■いざ、指導対局開始
ということで戦法は右四間飛車+elmo囲いに決めて、青嶋先生との指導対局が始まりました。
初手から、
△3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲4六歩 △3二金 ▲4八銀
△4二銀 ▲4七銀 △4三銀 ▲6八玉 △5四歩 ▲7八玉
△6二銀 ▲5六銀 △3三桂 ▲6八銀 △5三銀 ▲4八飛
△5二金 ▲3六歩 △6二玉 ▲7九金 △9四歩 ▲9六歩
△7四歩 ▲5九金 △6四歩 ▲3七桂 △6三金 ▲4九飛
△8四歩 ▲4五歩
と進んだ局面が下図。予定通りelmo囲い+右四間飛車の形に組みました。下手は理想的な形を築けており、ゆっくりしていると△7三桂~△6五歩のように上手の駒が伸びてくるのも気になるので、ここで▲4五歩と仕掛けます。この局面で評価値はおよそ+1850点。対局開始時の初形が+850点程度なので、下手が大きくリードを広げているといえると思います。
上図から、
△同 歩 ▲同 桂 △同 桂 ▲2二角成
△同 金 ▲4五銀 △4四歩
と進んだ下図は選択の岐路。
じっと▲8八角や▲5六銀もあるところでしたが、強く▲4四同銀を選択。一時的に駒損はするものの、上手は歩切れとなり、攻め立てる選択肢が増えます。
上図から、
▲同 銀 △同銀右 ▲5六桂 △5五角
と進んで下図。
上図から、▲4四桂 △9九角成 ▲8八銀 △9八馬 ▲5二桂成 △同銀 ▲4二飛成 (▲4四桂に△同角は▲8二角、△同銀は▲6六銀、また▲5二桂成に△同玉は▲4一角)の変化も魅力的で、迷いました。後で調べてみると、むしろこちらが最善で、「相手の馬を押さえ込んでいる」「飛車が成り込めた」の2点が大きく、有力な踏み込みでした。本譜はおとなしく▲7七角としました。
上図から、
▲7七角 △3三金 ▲4四桂 △同 銀
▲5五角 △同 歩 ▲2二角
と進んで下図。
▲2二角を入れる前に▲4五歩 △5三銀を入れるほうが得なのかで悶々と時間を使ってしまいましたが、さっぱりと▲2二角としました。局後の感想では、この▲2二角が良い手でしたね、と青嶋先生からお褒めの言葉をいただけました。
上図以下、
△4五桂 ▲4六歩 △3七桂成 ▲4五歩
△3八銀 ▲4四歩 △4九銀成
と進んだ局面で、
▲同金と応じてしまいましたが、これは上手に△3二金と頑張る余地を与えてしまい悪手でした。代えて、▲3三角成△5九成銀▲4三歩成で次の▲8三金や▲5一馬が厳しく、一方で下手には詰めろすら掛からずはっきり下手が勝っていたところでした。5九の金まで取らせてもまだ耐久力がある、というエルモ囲いの利点はしっかり胸に刻みたいと思います。
上図から、
▲同 金 △3二金 ▲1一角成 △2九飛
▲5八銀 △1九飛成 ▲2一馬 △4七成桂
▲3二馬 △5八成桂 ▲同 金 △8五香
▲5四桂 △7三玉 ▲5九香 △6五角
▲6二銀 △8三玉
と進みました(下図)。
決め手を逃したところから、局面は怪しくなりはじめます。上記手順の△2九飛には▲3九香と、より安い駒で、より自陣に遠いところからバリケードを築くべきだった、と局後の感想戦でご指摘いただきました。中盤の一手一手に時間を使いすぎたため、40分の持ち時間は使い果たし、30秒将棋となってしまいます。△8五香は詰めろではないので、▲8三金のように挟撃体制を敷くべきでした。▲5四桂~▲6二銀は「王手は追う手」となってしまって、筋の良い攻めではありませんでした。それでも上図から▲4三馬と指せていれば、▲7二銀~▲6一馬の詰めろが生じていて、下手が余していました。
上図から、
▲4三歩成 △7五桂 ▲8八銀 △7六角
▲7七金 △5四角 ▲7六歩 △8七桂成
▲同 銀 △同香成 ▲同 金 △6五銀
▲8八香 △4六桂 ▲5三と △3二角
▲6三と △5八桂成 ▲7三金
と進行して下図。激戦の様相を呈しています。
上図から、
△同 桂 ▲同銀成 △9三玉 ▲9五歩
△同 歩 ▲同 香 △9四歩 ▲8六桂
△9五歩 ▲9四歩 △9二玉 ▲7二と
△8一香 ▲8三桂
まで108手で下手の勝ち
△9五歩では、△8五歩が恐らくプロなら一目でまだまだ難しいだろう、というところで、最終盤は青嶋先生にゆるめていただいたようにも感じましたが、上の局面で上手が投了となり、花を持たせていただきました。感想戦では、「投了図以下、△6八成桂 ▲同金 △5九龍 くらいですがそこで上手玉に詰みがあるので投了やむなしですね」というコメントでした。
※厳密には、投了図では、上手が駒を渡さなければ上手玉は詰まないので、上記局面から△9八銀!をAIは示していました。桂馬を渡すか▲5八香とすると長手数ですが下手玉が詰むので、それ以外に有効な手段のない下手が実は劣勢になっていた、という評価でした…。(指導将棋のレベルを超えているので、これは見なかったことにします)
ということで評価値グラフは以下のとおりでした。
(縦軸の正(+)方向が下手有利、負(-)方向が上手有利、を意味します)
■対局をおえて
飛車落ち戦において、「遠山流 右四間飛車+エルモ囲い」の優秀さを強く実感した一局でしたが、終盤は精彩を欠いてしまい、歯切れの悪い将棋となってしまいました。攻めか受けかが問われる局面では、エルモ囲いの堅さを活かしてより踏み込んで攻めることを次は意識していきます。
初めてのオンライン指導対局も、Zoomと81Dojoで対面さながらの雰囲気を味わえたので、今後も積極的に活用してみたいと思います。
ご指導ありがとうございました!
■棋譜
手合割:飛車落ち
下手:筆者
上手:青嶋未来六段
△3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲4六歩 △3二金 ▲4八銀
△4二銀 ▲4七銀 △4三銀 ▲6八玉 △5四歩 ▲7八玉
△6二銀 ▲5六銀 △3三桂 ▲6八銀 △5三銀 ▲4八飛
△5二金 ▲3六歩 △6二玉 ▲7九金 △9四歩 ▲9六歩
△7四歩 ▲5九金 △6四歩 ▲3七桂 △6三金 ▲4九飛
△8四歩 ▲4五歩 △同 歩 ▲同 桂 △同 桂 ▲2二角成
△同 金 ▲4五銀 △4四歩 ▲同 銀 △同銀右 ▲5六桂
△5五角 ▲7七角 △3三金 ▲4四桂 △同 銀 ▲5五角
△同 歩 ▲2二角 △4五桂 ▲4六歩 △3七桂成 ▲4五歩
△3八銀 ▲4四歩 △4九銀成 ▲同 金 △3二金 ▲1一角成
△2九飛 ▲5八銀 △1九飛成 ▲2一馬 △4七成桂 ▲3二馬
△5八成桂 ▲同 金 △8五香 ▲5四桂 △7三玉 ▲5九香
△6五角 ▲6二銀 △8三玉 ▲4三歩成 △7五桂 ▲8八銀
△7六角 ▲7七金 △5四角 ▲7六歩 △8七桂成 ▲同 銀
△同香成 ▲同 金 △6五銀 ▲8八香 △4六桂 ▲5三と
△3二角 ▲6三と △5八桂成 ▲7三金 △同 桂 ▲同銀成
△9三玉 ▲9五歩 △同 歩 ▲同 香 △9四歩 ▲8六桂
△9五歩 ▲9四歩 △9二玉 ▲7二と △8一香 ▲8三桂
まで108手で下手の勝ち