「不思議な薬箱を開く時」
こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
出会いは異なモノ、味なモノ。
縁あって出会う二人の物語の始まりです。
しかし・・・・。
結果的に、別れてしまうこともありますね。
「縁がなかったんだ」
そうでしょうか?
さて、今回ご紹介いたしますお薬は、
かなりロマンティックな効能があります。
見えない何かが見えてくる。
さあ、なんでしょう。
では、お薬箱を開けてみましょう。
「運命を結ぶ糸が見えるようになる薬」
ロマンティシズムと思えますか?
しかし、心で信じていた運命の糸が、
実際には、まったくの思い違いであったとしたら?
お付き合いの流れの中で、
ゆっくりとそれを悟るのと、
始めから、ないものはない!と断定されてしまうのと、
どちらがいいのでしょうか?
アル・マムラカ・ル・アラビーヤ・ッ・スウーディーヤ、
現在のサウジアラビア王国ですが、
ヒジャーズのマリク、
つまり、支配者のナジュードは、
真の王族に相応しい娘を求めていました。
王族の血統を守るために、
血族婚を繰り返すことに対し、
偉大なる医学者、ファルマーンは警鐘を発していました。
そこで、美しいだけではなく、
マリクである自分に相応しい人間を
探したかったのです。
気高い王族には、
やはり、気高い者に縁が結ばれていると、
強く信じられていたのです。
しかし、こういうものは目に見えるわけではなく、
確かめる術はありませんでした。
そこで、マリク・ナシュードは、
ファルマーンに命じました。
「運命の絆が見える方法を考えよ」
これは、かなりの難問です。
特別なつながりを確かめられる、
または、目に見えるようになる、
それとも、触れるか?
ファルマーンは、悩みに悩んだ末に、
目に見えるようになる方法を選びました。
まさに暗中模索。
入口も定かではない研究の始まりです。
たいていの場合、マリクの命は、
固く絶対であり、逆らえば死、あるのみ。
思考錯誤は、5年間続きました。
そして、6年目にして、
ようやく光が見えてきました。
成果を見るための被検体は、
数百人を超えました。
殆どの被検体は、精神に異常をきたしました。
そして、ようやく、一人の囚人が言いました。
「見える・・・、絆を結ぶ帯が・・・・」
七色に光る美しくも不思議な色合いの帯が、
人と人とを結んでいるのが見えるというのです。
ファルマーン医師は、
何十人ものテストを繰り返し、
マリク・ナシュードに伝えました。
マリク・ナシュードは、
いたく感激し、さっそく従者に薬を服用させ、
国中から選りすぐった娘たちを見聞させました。
さて、結果は?
まあ、その前に、調剤料のご紹介です。
「運命を結ぶ糸が見えるようになる薬」処方
ダッチマンズ・ブリーチズ・・・・・・・・・・全草5本
トードストゥール・・・・・・・・・・・・・・全草5本
パッション・フラワーの根・・・・・・・・・・5本
ハイジョンザコングァラーの根・・・・・・・・5本
ヒキガエルに寄生させた茸・・・・・・・・・・5本
ヨヒンベ・・・・・・・・・・・・・・・・・・全草5本
クベブの実・・・・・・・・・・・・・・・・・7個
羊の肝臓の良性腫瘍・・・・・・・・・・・・・3片
蜜蜂の女王・・・・・・・・・・・・・・・・・5匹
コブラ毒のシロップ・・・・・・・・・・・・・大匙3杯
ポーポーの種子・・・・・・・・・・・・・・・20粒
諸注意
幻覚作用、毒素が強い植物ばかりですから、
煮沸、煎じる際には、
蒸気を吸わないように気をつけましょう。
記録によれば、製剤中に、
何度も殺し合いや、自殺行為に走る者が出たりなどが起こったようです。
備考欄
さて、効果のほどは?
薬を服用した者は、
マリク・ナシュードに命じられ、
娘たちを見ました。
しかし、誰一人として、
マリク・ナシュードとつながっている娘はいませんでした。
そして、街の中を歩かせましたが、
一人として発見できなかったのです。
街の人々には、それぞれ、
つながっている帯は見えたようですが。
マリク・ナシュードは、
別の王族や、貴族にも目を向けたのですが、
けっきょく、見つからなかったのです。
マリク・ナシュードは、
自分に相応しい花嫁はいないと悲観しました。
しかし、マリク・ナシュードを愛する娘は、
確実にいました。
それなのに、運命の帯が見えなかったという理由で、
選ばなかったのです。
この薬の別名は、「真実の絆」と言います。
調剤の書は、ファルマーン医師と共に、
ヒスパニアに向かいました。
現在、サラマンカの希書庫に存在しています。