「不思議な薬箱を開く時」
こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
粉薬よりも、顆粒、
丸薬よりも、糖衣錠、
苦いお薬には、オブラートやゼリー。
お薬を服用しやすくするための工夫も、
いろいろと発明されてきましたね。
まあ、昔の人から言わせると、
良薬は口に苦し。
早く治したかったら、どんなお薬であろうと、
さっさと飲んでしまいなさいってことですね。
では、今日も、お薬箱を開けてみましょう。
お薬番号・44
「百の声を出せる薬」
これは、物真似とか、そういうレベルではありません。
誰かの声、動物たち、鳥の囀りと、
そっくりそのままを出すことができるのです。
このお薬は、インドにその処方があったとされています。
マハラジャを楽しませるための研究だったのです。
このお薬はオランダの商人の知るところとなり、
門外不出のはずの処方箋は、
密かに、高額で買い取られてしまったのです。
オランダの商人は、その処方箋の巻物を
ポルトガルの商人に、これまた高額で売り、
ポルトガルの商人は、スペインの貴族に、
さらなる高額で売り渡したのです。
長旅の末、このお薬が再度調剤されたのは、
カンタブリア海に面したガリシア州でした。
ガリシア州を治めていた領主は、
珍しいもの好きであったようですね。
美酒と珍品で、宝物庫は満たされていたとか。
このお薬の調剤を任されたのは、
代々、医療に携わってきた家柄であり、
名医と言われていた、ベリーノ・ルーゴ・ドミンゲスでした。
彼は、かなり苦労したようです。
無理もありません。
インドでしか手に入らない薬草や調剤料ばかりです。
仕方なく、航海する商人たちに大枚を払い、
入手しましたが、そのおかげで、
完成までに、10年の月日がかかり、
調剤を依頼した領主は、亡くなりました。
しかし、ベリーノは、調剤をつづけ、
遂に完成させたのです。
弟子に服用させて、その効果の表れを
事細かに本に記しました。
ベリーノは、お薬の効果をとても面白がっていたようです。
お薬の量は、一瓶分だけ。
調剤するには、さらに大枚を叩かなくてはいけませんでした。
けっきょく、このお薬は、一瓶調剤されただけで終わります。
インドから旅してきた巻物と、
ベリーノの残した記録は、今でもガリシア州にあるということです。
では、調剤料をご紹介しましょう。
「百の声を出せる薬」処方
マドゥ・タオン(インドの蜂蜜)・・・・・・・・大匙3杯
トゥルル・アヤム(鶏卵)・・・・・・・・・・・一個
ウレウレ・・・・・・・・・・・・・・・・・3本
バンウコン(根茎)・・・・・・・・・・・・・・2本
パパヤの葉・・・・・・・・・・・・・・・・6枚
アリキシヤ・・・・・・・・・・・・・・・・3本
ライム・・・・・・・・・・・・・・・・・・1個
ヒヨドリの口蓋・・・・・・・・・・・・・・1羽分
ベニガシラヒメアオバトの舌・・・・・・・・3枚
サムヴァティの赤い羽根・・・・・・・・・・2枚
ジャターユの肝臓・・・・・・・・・・・・・1個
諸注意
サムヴァティ、ジャターユの生息域は、
かなり曖昧で、不確かですから、
地元民との連携プレーが望まれます。
その上、あなたを突き殺してしまうくらい、
けっこう簡単なほどに、大型ですから、要注意です。
残りの調剤料は、ジャングルに入るなり、
人様の庭園に忍び込むなりすれば、
なんとか入手可能なものばかりです。
備考欄
物真似の域をはるかに超えていると言えば、
もう、それそのものとしか考えられない!ような、
そんな声が出せるなら、面白いですよね。
鶴の一声で、大勢の人々を動かせる人物の声を真似るなら、
あなたの姿が見えない限り、知らずに従ってしまうでしょうね。
まあ、そんな、わけのわからない野望よりも、
あらゆる鳥たちの声や、動物たちの声を披露すれば、
大人気間違いなしです!
メジャーデビューできてしまいそうですね。
ちょっとベガスのステージで一稼ぎなんて、いかがでしょうか。
そうでなくても、楽しいでしょうね。
まるで動物や鳥たちと話し合えているかのような、
錯覚に陥ってしまいそうです。
まあ、それはありえませんが。
好きなように、好きな何かの声色を出せるのです。
あなたの大好きな誰かさんの声だって、
もちろん、出せるわけですよね。
片思いをしているなら、目を閉じて、
その声で愛を囁いてみる。
いやいや、それは、ちょっと病的ですか。
まあ、とりあえず、服用の理由を間違えなければ、
命に別条はありませんから、
飽きるまで、楽しめそうです。