「不思議な薬箱を開く時」
こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
気がつけば、もう60種目です。
みなさん、不思議で怪しいお薬の紹介に、
お付き合い下さり、感謝の到りでございます。
こうなれば、目指せ、100種目ということで。
よろしくお付き合いのほど、お願い申しあげます。
では、60種目のお薬です。
「暗闇でも見渡せる薬」
まるで、猫のようですね。
真っ暗闇の中でも、
昼間のように、辺りを見渡せます。
この薬は、1767年から1769年にかけて、
イギリス東インド会社と、
マイソール王国との間で勃発した、
第一次マイソール戦争の最中に開発されました。
ムスリム軍人であったハイダル・アリーは、
強力な実権を握っていましたが、
イギリス軍との戦いのために、
地の利を生かした夜戦を計画しました。
しかし、あちらから見えないなら、
こちらからも見えないのが闇夜。
ハイダル・アリーは、夜戦のデメリットに、
頭を抱えることになったのです。
当時、有能な薬師であったウガンダリは、
イギリスに対抗しようとしているハイダル・アリーに、
闇夜をものともしない視力を持たせる薬を
開発することにしました。
鳥目を治す薬から始まって、
さらに、蛍の光のように淡い灯りでも、
真昼のように見渡せるようになるまで、
薬の効果を上げることを目指しました。
この薬の被検体となった囚人たちは、
わずかな光にも敏感に反応し始め、
眩しさの余り、昼間は目の前が真っ白になります。
薬の効果を調整するために、
かなりの犠牲者を出してしまいました。
けっきょく、戦争が終結して四年後に、
薬は完成を見たのです。
まったくの暗闇の中であっても、
兵士たちは、障害物にぶつかることもなく、
戦いを続けられました。
戦争がない時代には、
暗殺のために使用されました。
ウガンダリは、薬の処方を守るために、
処刑されましたが、
処方箋は、イギリスに渡り、
大英博物館の書庫に保管されています。
では、調剤料をご紹介しましょう。
「暗闇でも見渡せる薬」処方
トゥム・イレン根・・・・・・・・・・・4本
クンチュル根・・・・・・・・・・・・・3本
マドゥ・タオン・・・・・・・・・・・・小匙5杯
クトゥム=バル=トゥムパル・・・・・・3本
ムリチャ・・・・・・・・・・・・・・5本
マジャカン種子・・・・・・・・・・・小匙2杯
ヤツメウナギの肝油・・・・・・・・・小匙2杯
ヨザルの卵巣・・・・・・・・・・・・1個
諸注意
調剤料は、注意深く、丁寧に扱うこと。
煎じた汁は、何度も絹で濾して、
とろみがついて来るまでさらに煮ます・。
マジャカンの種子は、色の良いつややかな物を選んでください。
ヤツメウナギの肝油は、よく練ってください。
練りが甘いだけでも、効きが遅くなることもあります。
備考欄
この薬を服用した後は、
目と耳の後ろに激痛が走るそうです。
驚かないようにしましょうね。
服用すれば、短時間で効果が表れてきます。
いつ夜のなったのかがわからないほどで、
暗闇は、まったく怖くなくなるとか。
蛍の光が、眩しく感じてしまったり、
蝋燭の灯火が目に痛く感じたり。
服用を続けすぎますと、すっかり癖になると言ってもいいでしょう。
真っ暗なまま、夜を過ごすこということが、
不安で仕方がなくなります。
不思議な明るさに慣れて来ると、
知らずのうちに、ひどい睡眠不足になつてしまうことも。
五感がおかしくなってしまうのでしょうね。
基礎体力が高く、精神的にも強かったとしても、
精神的なダメージがあるとなりますと、
やはり、長い服用は避けた方が無難です。
平和な時代には、用はないということですね。