「どこかの街」
こんな夢、
見たことがあるのは、私だけではないと思う。
記憶にある、
確かにあるのだが、思い出せない街並み。
鉛色のもったりと広がる曇天の下、
私は、一人で歩いている。
"どこだったかな、ここ。来た事あるよね、私・・・"
もやもやと焦燥感が胸中を焙り、酸っぱい何かが込み上げてくる。
激しい不安が私を襲っているのだ。
足早から、軽い駆け足になり、
ついに、走り始める。
街並みは、どんどん古くなっていく。
色を無くしていく。
はあぁ〜〜・・・
はぁ〜〜・・
情けない掠れ声が漏れて、足が絡れそうになる。
気がつけば、あたりは腐った薔薇色。
生温かい風がぼうぼうと吹き荒び、
私は、ついに悲鳴を上げて・・・。
夢は、いつも、そこで終わる。
酷く具合の悪い目覚めだ。
二度と見たくないな・・・。
しかし、ふ・・・・っと、忘れた頃に、
あの街は、私を引き込む。
もう、何度目だろうか・・・。
私は、夢の中で考えた。
一体、ここはどこなんだ?
どうして、私は、この街を知っているのだろう?
強い風に煽られながら、立ち竦んでいた。
目が覚めた時、また酷い気分になるんだろうな。
ふと、私は、今まで見せられ続けた夢の中に、
前とは違うモノを見つけた。
「あれは・・・」
ぽかん・・・、と開いた入り口。
真っ暗な入り口。
黒い薄布をすっぽりと被った者たちが、ぞろぞろと出て来た。
汚い板切れの棺桶を担いで。
やっとわかった。
私が、死んだ街だ、と。
目が覚めた時、遠い昔に死んだ私に、涙は流れなかった。