スモールビジネスにおける属人性、高くすべきか?低くすべきか?
一卵性双生児などの例を除いて、遺伝子とは人間にとって固有のモノ。だからこそ、というと語弊を生みそうですが、”人”に魅力をつけることは"モノ"に魅力を持たせるより容易だと考えています。
同じロットで製造された1万個の工業製品たちに「差別化をしろ!」と叫んでもなかなか難しいですが、人間は存在そのものがユニークなのである意味差別化が済んでいるとも言えますからね。その差別化要素がプラスに働くかマイナスに働くかはさておき。
この、人間の存在による差別化とは、いわゆる”属人性”ってやつです。
「あなただから買ったんだよ」と、言われる営業マン。
「○○ちゃんは推しだから」と言われるアイドル。
「○○さんに仕事を頼みたい」と言われるフリーランス、芸術家。
これらは、全て属人性。
一方でビジネスをしていると「組織化をしなさい」、「仕組み化をしなさい」と言われることが多いですよね。実際、スケールするためには組織化・仕組み化が必要になるのは間違いではありません。
この、組織化・仕組み化とは”属人性”の対局にあります。
今回の記事でお話しするのは、そんな属人性のお話。
「自分の名前で集客してたけど、そろそろサービスの魅力で集客していかなきゃな」と思っている人は必見です。
"人"に価値をつけるのは"モノ"に価値をつけるより簡単?
これは私個人の見解ですが、持たざる者にとって自分が作る商品・サービスに価値をつけるよりも”自分そのもの”に価値をつける方が簡単だと考えています。
経営資源に乏しいから持たざる者なのであって、そんな持たざる者が資本を持った大手に勝てるようなモノ・サービスを作るのはハードモード(ルナティック)です。
一方で、あなたという人間は唯一無二です。資本があるからと言って全く同じものを誰かが提供することはできません。
だからこそ、高い指導力を持った人間の講義が買える世の中になっても、地元の塾に通う人間はいなくなりませんし、世界一美しいキャバ嬢がいたからと言って、ローカルのキャバクラがつぶれてなくなったりしないわけです。
このように属人性とはスモールビジネスにおいては持たざる者の武器になってくれるのです。
属人性が高い事業でよく指摘される問題点
持たざる者に恩恵をもたらしてくれた属人性ですが、よく指摘される問題点があります。
スケールできない
単一障害点のリスクが大きい(大きすぎる)
継続性が低い(死んだら終わり)
安定性が低い(体調不良とかどうする?)
スケールできない?
持たざる者に恩恵をもたらしてくれた属人性ですが、ある程度規模を大きくするためには属人性を下げ、仕組み化・組織化が必要になるというのが一般論です。
例えば、事業初期に数十人~数百人の人に慕われることで取引先を開拓し受託事業で数千万円の利益を出す。このくらいの規模であれば、個人でサービス提供をしていたとしても比較的実現可能でしょう。
しかし、数億円、数十億円と規模を大きくしていくにつれてクライアント一人当たりに使える時間は少なくなり、サービス提供するのが難しくなってきます。
そのため、サービス提供するための人材を雇い組織化・仕組み化をしていくべきだ、というのが一般的に言われている属人性-スケール問題です。
賢いあなたならわかるように「1:nで提供できるモノ・サービスを開発すればいいじゃないか」という意見もあります。
事実、インフルエンサービジネスは基本的に再生産、大量生産が可能な”モノ”という形で商品を作っていることが多く、個人が稼げる上限金額は想像よりもずっと高いところにありますよね。
ただ、現実として半端なく稼ぐインフルエンサーってそんな簡単に作れるんだっけ?という問題もあるのです。
数十人~数百人に慕われて契約が取れさえすれば数千万円稼げるタイプの事業と違い、モノを媒介すると顧客ひとりあたりの単価が低くなります。
スケールできるからと言って、モノを媒介する事業で本当に稼ぐことができるんでしょうか?少し具体的に考えてみましょう。
まずはクライアントと1:1のサービスを提供する事業の場合。
事業内容:月に1時間のミーティングと進捗確認しながらの方向性を決めていくコンサル的な事業を15万円で販売する。最小契約期間6か月間。
月300万円(利益)を稼ぐために:20人のクライアントさえいればOK。
月のMAX利益(160時間稼働):1クライアント1時間で、会議の隙間時間がゼロという究極の効率化を図ったとしても月に2,400万円が限界。
次に、1:nで"モノ"を提供する事業の場合。
事業内容:月額1000円のメールマガジンを発行。月次解約率5%(良い水準)。
月300万円(利益)を稼ぐために:購読者数が3000人、毎月150人の新規顧客を獲得し続ければ購読者数は3000人で維持。
月のMAX利益(160時間稼働):サービスの構造上青天井で稼げる。
クライアントに1:1でサービスを提供する事業に関しては、そこそこまともな人なら実現するのはそれほど難しくありません。月額300万円稼ぐ場合でも20人のクライアントを獲得して維持し続ければいいだけですからね。
一方、メールマガジンで3000人の読者を集めるのは簡単ではありません。YouTubeで登録者数509万人を誇る中田敦彦さんのオンラインサロンは月額980円で約6000人の参加者。
芸能人、それもYouTubeで500万人以上の登録者を抱える人でさえ約6000人ですよ?
このことを踏まえると、ただの一般人が数千人から毎月定期的にお金をもらうことの難しいと言えますよね。
もちろん「いや、サービスの内容によるだろ!」とか「ジャンルによってはもっと集められる!」、「単価をあげればいいだろ!」という声があるのは分かります。
分かりますが、無名のオメェが本当にできんのか?って話です。
私のような人間からすると、属人性高く1:1のサービス提供をする事業でもほとんどの人は満足できる稼ぎが得られるのでは?と思うわけです。
つまり、スケーラビリティはそこまで致命的じゃないというのが私の意見。
依存リスクが大きい(大きすぎる)
正直なところ、スケーラビリティより、属人性において本当に問題とされるのはむしろ依存リスクの方だと思います。
単一障害点のリスク
継続性が低い(死んだら終わり)
安定性が低い(体調不良とかどうする?)
誰でも分かりますが、極度に"個人”に依存していると事業の継続性が低いですよね。
例えば、あなたの属人性で事業が成立している場合、あなたが死亡ないし、何らかの事情でいなくなった途端に事業が立ち行かなくなります。
「社員がいないから困る人は居ない」というのは無理筋な主張です。クライアント(お客様)が困りますからね。
死亡や行方不明まで行かずとも、体調不良などでサービスの提供が止まってしまうリスクもあります。
一人に依存しているということはその一人を潰せばすべてが壊れるということです。ゴーイングコンサーンの前提はどこ行ったって話ですよ。
そうはいっても、創業オーナーで「わしの好きなようにやる!死んだら?死んだらそれで終わりじゃい!」という事業がダメかと言われるとそうとも思いません。
100%オーナーで現世で好きなように生きるだけの金を稼ぎ、この世の春を謳歌して幸せであればそれでもいいでしょう。単一障害点のリスクがあり、クライアントに迷惑をかけてしまうこともあるでしょうが、クライアントがあなた一人がいなくなっただけで立ち行かなくなるなんて脆弱なこともないでしょう。
では、どのようなときに属人性を下げるべきなのでしょうか?
属人性を下げるべきなのはどんなとき?
私が思うに、以下二つの方向性があります。
事業(ブランド)を後世に残したい
事業売却したい
事業(ブランド)を後世に残したい
事業を継続してブランドを後世に残す、クライアント、ひいては世の中に良い影響を与え続けたいという意思があるのであれば”個人”から”事業”に価値を移していくというのがあるべき姿だと思います。
あなたが「自分のサービスは真に人のためになっている」と感じており、世の中に広めて価値を届けたいと考えているのであれば属人性を下げて継続性を高めるべきだと思います。
ずっと働き続けたいと考えている人も安心してください。
「生涯現役」を貫きつつも属人性を下げて継続性を高めることは可能です。どういう形で継承するかは問題ではありません。俗に言う「仕組み化・組織化」にこだわる必要はありません。
マニュアルという形でも、弟子を作るという形でも何でもいいのです。
後世にブランドを残したいという気持ちで属人性を下げるのであれば、大事なのはあなたの意思・知識・ノウハウなどを消滅させないことだけ。
事業売却を考える場合も当然属人性を下げるべき
あと、当然ですが事業売却をしたい場合も属人性を下げる必要があります。
次の二つの事業のうち、あなたならどちらを高く買いますか?
特定の個人が抜けたら売上がガクンと下がる
特定個人に依存せず、モノ・サービスで売上が立っている
買い手側の気持ちになれば簡単ですね。当然2番の事業でしょう。
キーマン条項(ロックアップ)があるとはいえ、”個人”に依存した形で事業が回っているのではなく"モノ・サービス"によって事業が回っている方が高値を付けたくなりますよね?
"人"からモノ・サービスに価値を移してきたトップブランドたち
例えば、フランスを代表するオートクチュールデザイナー、クリスチャン・ディオール。彼が作ったブランドは死後も継続して名を馳せています。
そのディオールのもとで経験を積んでいたイヴ・サン=ローラン。引退まで40年にわたり活躍し「モードの帝王」とも呼ばれる彼が作ったブランドもまた滅亡していません。
他にも、考えれば枚挙にいとまがありません。
ココ・シャネル
ティエリー・エルメス
ルイ・ヴィトン
グッチオ・グッチ
トーマス・バーバリー
マリオ・プラダ
エンリケ・ロエベ・ロスバーグ
ブランドに個人の名が使われるほどに、”人”が重要だったはずです。しかし、彼ら彼女らがこの世を去った後も、創りあげたブランドはなくなっていません。
これは”人”からモノ・サービス・ブランドへと価値を移譲していったからです。
「○○さんの作る作品が素晴らしい」という"人"に依存した評価から「○○のブランドが作る商品が素晴らしい」へと価値を移していったのです。
”人”からモノ・サービスへと価値の移譲を成功させたのはファッション関連事業だけではありません。
皆さんご存じ「慶應義塾大学」、創始者は福沢諭吉です。
現在では約3万人ほどの学生が在籍していますが、その中で「福沢諭吉先生が作った大学だから慶應義塾を選んだ!」という人がどれだけいるでしょうか?
恐らくごくわずかでしょう。多くの学生は「福沢諭吉先生が作った大学だから」慶應義塾大学を目指したのではなく、「慶應義塾大学」そのものを目的としたはずです。
これはまさに"人"から"モノ・サービス"へと価値が移っている例です。
もしあなたが「自分のためだけにスモビジを作って現世を謳歌したい!」というだけでなく、後世にも自分のサービスを残し世を良くしたいという考えがあるなら個人からモノ・サービスへ価値を移していくことを考えていくべきです。
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