火の玉の如く22(小説)
いよいよ優勝を賭けた一戦が始まる。この日の為に備えてきた。
ほのかさんのことは忘れたことは無いがウォーミングアップ中、スタンドを見ても姿は見えない。真由さんがテーピングを施し俺に言った。
「上山くん、今日は負けられない一戦ね。みんなあなたを頼りにしてるわ。頑張ってね!」
俺は真由さんに微笑んで言った。
「はい!頑張ります!」
真由さんはニコッと笑って俺の肩を気合いを入れるように叩きペンチに戻った。村上さんも俺を鼓舞するかのように何度もうなづく。
もう闘いは始まっているんだ。俺はまたスタンドを見た。
いつもの席にほのかさんがいない……。その時、オッサンの声が響いた。
「みんな集まれ!今日で優勝が決まる。泣いても笑っても今日がシーズン最後だ。何も言わん!全力を尽くし最後の最後まで走り抜け!俺たちは戦士だ!よし!いけ!」
「「「オー!!」」」
グラウンドに決勝戦を告げるファンファーレがなりアナウンスが響き渡る。
『お待たせしました!ただいまより、TTVチャンピオンズカップGリーグ決勝戦を行います!』
アナウンスに続いて両チームのスターティングメンバーの紹介と共にスコアーボードに各選手の姿が映し出させる。
華やかな雰囲気とは裏腹に俺たちの目は既に闘っていた。俺たちクリムゾンウォリアーズもスタリオンズも既に臨戦体制だ!
俺たちはグラウンドに走りだした。その時。
「上山!ちょっとこい!」
オッサンが俺を呼び止めた。
「上山。ウチに帰って来いと言っても帰って来ないでお前も頑固な奴だな。今日はほのかのことは忘れろ。試合に集中しろ。お前、気づいて無いが、ほのかのことで足が地についてないぞ!」
「そんなことありません」
オッサンは鋭い眼光を光らせて、俺の肩を叩くと俺を戒めるように言った。
「いいから俺の言う通りにしろ。試合に集中しろ!見ろ!今川の余裕の顔を!」
俺は振り返ってみた。今川がこちらを見ながら、うすら笑みを浮かべている。何か見透かしたような笑みだ。
「とにかく試合に集中しろ!」
オッサンがさらに鋭い眼光を光らせて俺の肩を叩きそう言った。その言葉に俺はハッとさせらた。そうだ、今日は優勝を左右する一戦。うかうかしてられないんだ!
「わかりました!」
そういうと俺は走り出した。オッサンの言葉にあらためて気合いを入れさせられた。今日は負けられない!必ず勝つ!俺がポジションに着くと、しばらくしてホイッスルが鳴った。
今川とカルロスがボールを持って走り抜けてゆく!ウチも岩橋さん、立石さんがボールを奪いにいく!さらに谷内さんも加わる!
立石さんがボールを奪う。一度後ろにボールを蹴り、俺にパスする!
俺は天野さんにパス!しかし、相手も東山がボールを奪う!
さらに戸田さんが奪う!再び今川が奪う!そのまま切り裂くように駆け抜ける!一気にシュートだ!
しかし、GKの足立さんがかろうじて防ぐ!
「もう少し前にいけ!」
足立さんの指示通りに少し前にポジションを上げた。足立さんが大きくボールを蹴り出す!
東山がボールを奪う!小沢にパス!さらに渡部にパス!
その後も一進一退の攻防が続く!
俺も攻撃に参加するがなかなか突破できない!
突破できないだけじゃない、次々来るスタリオンズの攻撃に対し、俺も必死に止める!
「なかなかやるな、上山くん。とてもサッカーを始めて2年とは思えない!だが、俺は君に負ける訳にはいかない!小学生の頃からサッカー一筋なんだ!キャリアの差をみせてやる!」
今川はそういうと俺が奪ったボールを奪い返し、そのまま攻撃に転じた!
今川は信じられない速さでボールを操り、あっという間にシュートを決める!
「うわー!!」
GKの足立さんの手を蹴破りボールはそのままゴールめがけて突き刺さる!
「くっそー!」
今川の声が響く。ボールはわずか横にそれた。危ないところだった。確かに俺はボーっとしている。さっきのプレーは今川もうまかったが俺も集中力を途切れさせていた。
ほのかさん、俺の想いは変わらない。でも今はただ勝つことだけ考える!
見ていてくれ!ほのかさん!俺の姿を!
俺は"疾風のサムライ''の後継者じゃねー!俺は"火の玉"だ!全身を燃やし尽くし疾風よりも疾く駆け抜ける"火の玉"だ!
足立さんが大きく蹴り出したボールを俺は無理矢理奪う!そのまま駆け上がる!この試合、何がなんでも勝たなきゃならないんだ!
スタジアムを興奮と表現できない緊張が包む中試合は進んでいく。一進一退の攻防が続く。ここは気をゆるめたほうが負けだ。
今川はやはりこれまでの相手とはレベルが違う強敵だ。しかし負けられない。必ず俺がゴールを決める!緊迫した展開の中、時間は進んでいった。