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火の玉の如く9(小説)
初めての試合
3日後、試合の日が来た。みんなは軽い調整のような顔をしている。
M大の連中が緊張した面持ちでグラウンドに来た。
キャプテンの足立さんが俺達に集合をかけた。
「よし、リーグ戦を前にして、相手は大学チャンピオン。いい調整相手だ。だが油断はするな、しっかりしめろ。今回は監督の意向で今からユニホームを配る。まずは大沢」
ユニホームが次々に配られていく。名門クリムゾンウォーリアーズのユニホームだ。汚すプレーだけはしてはいけない!
「次、上山、期待してるぞ!」
そう言って足立さんが俺にユニホームを配ってくれた。俺は背番号を見た。12番だ。
よくわからないがいい数字だ。
突然、村上が大声で笑い出した。
「ハハハ。上山、お前、サポーターだったんだな。どうりでうまいはずだ。ハハハ」
何を言っているのかよくわからない。俺は村上に言った。
「何がおかしいんスか?サポーターって何ですか?」
村上はさらに大笑いして言う。
「ハハハハハハ、笑わすぜ。サポーターっていうのは応援してくれる観客のことだ。そんなことも知らないのか。ハハハ。海外じゃ12番をつけてる選手もいるが、日本のチームじゃ12番はだいたいサポーターの番号だ。ハハハ」
俺の背番号が観客の背番号……あの野郎!
オッサンよくもやってくれたな!
村上!今のうちに笑え!必ず目に物言わせてやる!
俺はユニホームを着た。オッサンがやってきた。
「オッサン!なんで俺のユニホームがサポーターの番号なんですか?」
俺がそういうとオッサンは俺を思いきり睨んで言った。
「やかましい!今のお前の実力じゃサポーターももったいないぐらいだ!背番号にこだわる暇があるならプレーで示せ!」
オッサンは鬼のような形相で俺に言った。言ってくれるじゃねえか、"疾風のサムライ"よ!
「わかったよ、俺もアスリート、プレーで証明してやるよ!」
俺がそういうとオッサンはさらに鋭い眼光で俺を見据えた。
俺はオッサンを睨み返すとピッチに向かった。
ニヤついている村上も睨む。
キャプテンの足立さんがM大のキャプテンと審判とともにコインでボールを取るか決めている。
どうやらM大がボールを取った。
矢野さんは駆け足で自分のポジションに向かい、俺の横と通る時に声をかけた。
「上山、今日はお前の初めての試合だ。テクニックうんぬんでなくおもいっきりぶつかれ!」
矢野さんはそういうと自分のポジションに向かった。
俺はユニホームの袖を一瞬握ると気合いを入れて前を見据えた。
審判のホイッスルが鳴った。相手はまずは静かにボールを回しながら、大きくパスしたりして攻めてこない。
向こうのフォワードがパスしたと思ったら急に攻めてきた!
俺の前に相手が攻めてくる。俺はそのボールを取りに行く!
相手はそのまま俺を簡単に抜く!
俺はそのまま相手を追いかけた!
「上山、追うな!守備位置に戻れ!」
ディフェンダーの戸田さんが叫んだ!俺は言われた通り、元に戻る。これじゃオッサンと1対1で勝負した時と変わらねえ。簡単に抜かれる。
「おい!上山!あんなに簡単に抜かれるな!もっとマークにつけ!ガラ空きだぞ!」
村上が俺にそう言った。マークにつくってわかっていてもなかなかうまくいかない。
オッサンは黙ったまま鋭い眼光で試合を見ている。
「やあ、秋山監督、今日はお招きにあずかりありがとうございます。早速試合拝見させていただきます」
誰だ?そんなことより今は試合に集中しなくては!
それからも俺のプレーは散々な結果だ。他のメンバーに守られてなんとか失点してないだけだ。
また俺の前に相手が攻めてくる。俺はスライディングタックルをしてボールを奪う!
相手が倒れている!俺は構わずボールを奪って攻め込んだ!立石さんが手をあげた。俺はパスした!
そのまま立石さんのシュートが決まる!
ホイッスルが鳴る!相手が何やら審判にクレームをつける。
審判はそれを認めず、まずは俺達が先制の1点だ!そのまま前半終了!
俺はベンチに戻る。さっきの男が俺に近づいて言った。
「はじめまして、上山さん、ハナソミック・スタリオンズの今川です。破天荒なプレーしますね。今日は秋山監督にお招きにあすかり試合を拝見させていただきます。よろしく」
そう言って今川は俺に握手を求めた。なんでこんな練習試合にこんな奴を呼ぶんだ?
その時、村上が俺に言った。
「上山!さっきのタックルはなんだ!もう少しで反則じゃないか!それにあんな状況でタックルする奴はいない!お前自分のポジションわかっているのか!」
そこまで村上が言って、オッサンが村上を止めた。
「上山、お前喧嘩腰だぞ。サッカーはスポーツだ。後半はもっと考えてプレーしろ」
オッサンはそういうと元の位置に戻った。もうすぐ後半が始まる。俺はさらに闘志に火をつけた。