火の玉の如く19(小説)
駆け抜ける火の玉
その後、俺たちは順調に勝ち星を重ねていった。首位をキープしたままリーグ戦もいよいよ佳境をむかえる。ついに1週間後はスタリオンズとの優勝を賭けた一戦だ。
この試合に負ければ俺たちはスタリオンズに逆転優勝を奪われる。スタリオンズは簡単に勝たせてくれる相手ではない。これまで三連覇を果たした強豪だ。絶対に勝たなければならない。
俺たちは1週間後の優勝を賭けた一戦を前に練習に集中していた。
「立石!岩橋!もっと早くあがれ!天野!戸田!確実にボールをまわせ!」
オッサンのゲキが飛ぶ中、俺も今まで以上に猛練習に明け暮れる。
スタリオンズは今まで以上の強豪だ。今川はもちろん、東山、小竹、カルロスという超一流の選手が揃っている。
「よし!集合!」
オッサンの言葉に皆が駆け寄る。流れる汗を拭くことも無く、食い入るようにオッサンの話を皆聞く。
「今日の動きでは、まだスタリオンズには勝てない。いいか、相手は昨年のチャンピオンだ!簡単に勝たせてはくれない。いいか、各自、自分が何をしなければならないのかわかっているはずだ!今日の練習はこれで終わるが明日もこんな調子では勝てない!考えて練習しろ!今日はこれで解散!」
オッサンの言葉に身震いした。そうだ、俺たちは挑戦者だ!
「上山」
「はい!」
オッサンが俺を呼び止めた。
「スタリオンズは必ずお前をマークする。これまでノーマークだったお前がここまで勝利の原動力になっている。マークされたら近くいる奴にまかせろ。もし、スペースが少しでも開いたら走れ!」
「はい!」
オッサンのアドバイスに俺は応えた。
「スペースが狭くてもチャンスなら駆け抜けていいんスか?」
「それでいい」
オッサンはうなずいた。
オッサンが俺に賭ける思いが伝わる。次の試合のポイントを握るのは俺なんだ。熱い思いを抱きながらオッサンに俺は力強くうなづく。
優勝を賭けた一戦…ボクシングならタイトルマッチか。いや、次の試合もタイトルマッチだ。サッカーで、日本で頂点に立つチャンピオンチーム、スタリオンズに挑戦する俺と仲間たちのこれまでのすべてを賭けた集大成の試合だ!
次のタイトルを賭けた一戦に身震いしながら、その後シャワーを浴びて俺は家路についた。
バッグを背負い歩いていると、ほのかさんが立っている。いつものまぶしい笑顔だ。
「蓮くん!おつかれさま!」
そう言って、ほのかさんが俺に駆け寄る。俺は激戦が続く中、ほのかさんの笑顔に癒されてきた。ここまでこれたのはもちろんたくさんの人達のおかげだが、ほのかさんにも本当に力を与えられた。ほのかさんには感謝の思いしかない。俺はほのかさんに言った。
「ほのかさん、一緒に帰ろうか」
「うん!」
俺はほのかさんと手を繋ぎ歩き出す。ほのかさんと楽しく話しながら歩いている。しかし、何か変だ。時々、ほのかさんは暗い表情になる。
「ほのかさん、何かあったんスか?」
「どうして蓮くん?」
俺の言葉にほのかさんは一瞬、暗い表情になったが、またいつものように微笑み返した。
「ほのかさん、何かあったなら言って下さい。ほのかさんが俺の一番のサポーターなら、俺もほのかさんの一番のサポーターになりたいんスよ、俺も」
「……………………」
あきらかに何かある。俺は握った手を強く、さらに握りしめて、ほのかさんに言った。
「ほのかさん、俺はほのかさんの一番のサポーターだ!どんなことがあっても絶対にほのかさんを守る!だから言ってほしい!何があったのか」
俺がそういうとほのかさんは強く握った俺の手を無理矢理解くように離した。
「……私ね…私」
そこまで言って、ほのかさんは黙ってしまった。一体何があったんだ?
ほのかさん、どうしたんだ?
「…ほのかさん」
俺がそういうとほのかさんは顔を伏せて泣いている。
「……私…私」
ほのかさんはまたそこまで言って黙ってしまった。
「…うっ…うっうっ…うっ」
必死に涙を堪えようとする、ほのかさんを俺は見つめて肩に手を置いた。
泣きだすほのかさんに何もできない俺はただ、壊れた操り人形の糸が切れたみたいに、ただほのかさんを見つめていた。
夕日が西の空に去ってゆく。俺とほのかさんの影はただ長く虚しく、風に吹かれていた。
ほのかさんの髪がその虚しさとは裏腹に輝きを放っていた。