火の玉の如く10(小説)
後半が始まった。立石さんが岩橋さんにボールを回して、そのまま谷内さんにパスし、M大に大きく攻め込む!
相手がボールを取りにくるのを谷内さんは軽快な動きで抜き、俺にパスする!俺はボールを受け取るとそのままドリブルで攻め込む。
相手はドリブルで攻める俺のボールを取りにくる!俺はそのまま、攻め込んだ!
「上山!立石が手をあげている!大きくパスしろ!」
後ろからディフェンダーの戸田さんが叫んだ!
俺は立石さんが合図を出していたのがわからなかった。ええーい!ままよ!そのまま攻め込む!ドリブルで相手を抜く練習は嫌というほどやったんだ!
俺は1人抜く、2人目も抜く、3人目も!
あとはゴールだ!
えっ、シュートするのに足がもつれてできない。俺が戸惑っていると相手にボールを取られた。
逆に相手がそのまま攻め込む!俺は守備に戻るため急いで走った!
相手が俺の近くにいる奴にパスした!俺はそいつのボールを取ろうとしたが取れない。
「上山!上がれ!密集するな!」
今度はボランチの天野さんが叫んだ!
俺はそのまま上がった。しかし、どういう訳か相手にボールを支配されている。
相手がシュート!なんとか足立さんが取る!
「上山!密集するな!守備位置を考えろ!」
そう言いながら足立さんがボールを蹴る!
ボールは大きく俺のところに来た!
俺がボールを取るより、相手が先に取った!
相手はうまく攻め込みシュートする!
今度は足立さんも取れない!同点だ!
「馬鹿やろう!上山!お前、チームのリズム崩してるじゃないか!うろうろして邪魔するな!」
村上が叫んだ!チームのリズムを俺が崩してる?
俺は練習通りにやっているだけだ。
その後、確かに皆の動きはいつも通りではない。足立さんはなんとかしのいできたが、ついに逆転のゴールを決められた!
俺はクタクタで足がもつれる。何故だ?どうしたんだ?
審判のホイッスルが鳴った!俺達の負けだ…。
M大の連中はプロに勝ったことで喜んでいる。
M大の選手1人1人と握手をかわす。俺はそのままベンチに戻った。
「馬鹿やろう!お前がチームのリズムを崩したから負けたんだ!自分勝手なプレーをしやがって、素人以下のプレーじゃないか!大学生に負けてどうするんだ!この下手くそが!お前のせいで負けたんだ!わかってるのか、この素人!辞めちまえ!」
村上が俺に大声で罵る。他のメンバーも皆ひややかな目で俺を見てる。
オッサンは静かな表情で無言で俺を見てるだけだ。
「監督、今日の試合ありがとうございました。うちもウカウカしてられませんね。特に12番には警戒だ。いい選手入れましたね。それではこれで失礼します」
そういうとスタリオンズの今川は帰って言った。
今川が帰った後、オッサンがみんなを集める。
「今日の試合は最低だ!チームのリズムが崩れてる。しかし、そのような状況でも試合中に立て直すようにしなくてはいけない!もっと指示しろ!各々課題はわかっているな!特に上山!お前は最低だ!お前はチームの和を乱した。お前のポジションの役割をもっと理解しろ!以上だ!解散!」
俺はそのままロッカールームに向かった。途中で足立さんが俺の肩を叩き言った。
「今日は勉強だ!とにかく練習だけでなく、監督のいう通り、ポジションの役割の勉強だ。フォーメーションは俺が後から教える!」
足立さんはそういうとユニホームを脱ぎシャワー室に入った。
皆は無言で時々俺を見る。やはりその目はひややかだ。
「上山くん、今日は初戦よ。元気だして。これからよ。景気直しにどこか食事に行きましょ!」
真由さんがそう言ってきた。しかし、そんな気にはなれない。
「すみません。今日は俺、1人で帰ります」
そういうと俺は1人シャワーも浴びずに荷物を詰め込みグラウンドを後にした。
「上山くん……」
それだけ言って、居た堪れない表情で真由さんは立っている。
帰ると言ってもオッサンの家だ。帰る気にはなれない。俺は河川敷のほうに足を向けた。
やけに心が痛む。そして悔しい…。この気持ちをぶつけることもできないまま河川敷が目の前に見えてきた。