火の玉の如く25(小説)[完]
ほのかさんを抱きしめ、しばらく水面に映る月の明かりを俺は見ていた。
ほのかさんのぬくもりがやさしく伝わる。ほのかさんを強く抱きしめて俺は言った。
「俺、約束するよ。ほのかさんを必ず守る。必ず幸せにするよ」
「いや、許さん!」
突然声が聞こえた。俺は声のほうを見た。ほのかさんも見上げた。オッサンだ。あの野郎どこまで邪魔するつもりだ。
「オッサン!何言われようが俺はほのかさんと結婚します!」
「お父さん!私も蓮くんと結婚します!私は好きな人と結婚したいの!」
オッサンは俺たち二人の言葉を聞くと、呆れたような顔で言った。
「上山。お前、記者会見をボイコットして、それでもプロか?ほのか、本当にコイツでいいのか?一生のことだぞ。よく考えたんだろうな?」
「私はよく考えました。蓮くんのこともお父さんのことも。そして出た答えが蓮くんと結婚することです」
ほのかさんはオッサンを強く見据えている。
俺の手を強く握りしめながら。俺もほのかさんの手を強く握りしめた。オッサンが鋭い目付きで言った。
「上山、ほのか、結婚は許さん。しかしだ」
その言葉にほのかさんはくちびるを噛みしめ、さらにオッサンを見据えて言った。
「お父さん!私はお父さんが反対しても蓮くんと一緒にいます!」
「だから、『しかし』と言ってるだろう」
そういうとオッサンは一息ついたように、ため息をついてベンチに座った。
「上山。お前、1年間スペインに行け。向こうで1年間プレーし、それなりの成績を残してきたら、ほのかとの結婚を許してやる」
「えっ、スペイン?」
俺がそういうとオッサンはうなづいた。
「ほのかと結婚したけりゃ、一流どころか超一流の選手じゃないとな。なんせ秋山譲治の娘だぜ。スペインで活躍したら、また戻ってこい。結果を出してこれたら、その時はほのかとの結婚はOKだ」
「オッサン!いや、監督!俺、やります!必ず結果出してきます!」
「ほのか、本当にコイツでいいのか?監督をオッサンと呼ぶ無礼者で?」
「はい!」
ほのかさんは大きな声でそう応えると笑顔でうなづいた。オッサンが頭に手をあてて、ため息をついている。
「上山、スペインは日本なんか比べようのない怪物がいっぱいだ。そいつらと争って勝った時、お前はもっと成長しているはずだ。それから『ほのかを守る』と約束したことを忘れるなよ!ほのか、今川には婚約のお話はお断りした。1年間、お前もよく考えておけ」
そう言ってオッサンはベンチから立ち上がり家の方向に歩きだした。
俺はほのかさんに向いた。ほのかさんはぬいぐるみを拾うと土を払い俺にぬいぐるみを渡して言った。
「これ、スペインで活躍できる御守りにしてね。絶対活躍してね。私、待ってるから」
俺は大きくうなづいた。水面に映る月の明かりを俺たちは手を繋ぎ見つめていた。俺はその月明かりに誓った。必ず結果を出してやると。
それからしばらくして俺はスペインに渡った。スペインでの生活は大変で激戦の毎日だった……!
俺はそれでも駆け抜けた!前に前に!走り続けた!自分の挑戦の為に!日本で待つ約束を果たす為に…!
…そして、1年間のスペインでの闘いが終わりを告げた。
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空港に着いた俺を記者の方々が囲む。
「上山選手!スペインでのご活躍おめでとうございます!日本では、またクリムゾンウォーリアズのユニフォームを着ることになりますか?」
「はい。そういう約束で行きましたから」
「日本での新たな抱負は?」
「大切な人を守ることです!」
記者の方々の質問にこたえ、まぶしいフラッシュをあび歩く。やがて俺の視線の前に懐かしい姿が見えてきた…!
俺の視線の前にほのかさんがいる。まぶしい笑顔で。その横にオッサンも笑顔で俺を見つめている。
ほのかさんの手を取ると俺は言った。精一杯の想いをこめて。
「ほのかさん、約束は果たしたよ。次はほのかさんとの約束を果たす番だ」
「ええ、そして新たに日本で"火の玉"になって活躍するのね。私達二人で」
俺はうなずくと、ほのかさんにもらったぬいぐるみをほのかさんに渡した。ぬいぐるみを一緒に抱いて二人で歩き出した。
「上山、約束通りほのかとの結婚は許す。頼むぜ、ほのかを。そしてクリムゾンウォーリアズを!キャプテン!」
オッサンの言葉に大きくうなずくと、オッサンは俺とほのかさんの背中をやさしく叩き、俺たちを送り出した。
「はい!必ず幸せにします!そして勝ちます!」
俺は新たに歩み出した。日本のライバル達も今まで以上に成長しているだろう。
そして俺の隣りには、ほのかさんがいる。ほのかさん、いつまでも突き進もう。どこまでも二人で。そして俺はこれからも駆け抜ける!火の玉と化して!
完