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火の玉の如く8(小説)
翌日になり、俺はいつものように練習に向かった。ロッカールームに行く前にクラブハウスに寄る。
チームメイトと共に真由さんもいる。俺は真由さんに挨拶した。
「真由さん、おはよう」
「…………………」
真由さんは全くの無言だ。黙ったまま、チームメイトの岩橋さんのマッサージとテーピングを行っている。
岩橋さんが、終わったので俺もテーピングを頼んだ。
「真由さん、俺もテーピングお願いします」
「私じゃなくて、ほのかさんにしてもらったほうが嬉しいんじゃないの!」
そういうと真由さんはクラブハウスを後にした。確かに昨日は気まずい雰囲気の中、買い物と食事をした。ずっと無言だもんな。
俺は仕方ないので自分でテーピングして、ロッカールームに向かった。
ロッカールームで着替えてグラウンドに出る。
芝の匂いもさわやかな季節になってきた。
軽く身体を動かしていたら、オッサンが集合をかけた。
「みんな、集まったか。実は3日後、練習試合を行うことになった。相手はM大だ。胸を貸してやるつもりでいけ。ただし油断はするな!」
オッサンが俺達に向かって気合いの入った声でいう。
「スターティングメンバーを発表する。言われたものは、返事しろ。まずはDF、右のセンターバック天沢、左のセンターバック奥山、右のサイドバック久野、左のサイドバック戸田」
ディフェンダーからメンバーが呼ばれいく。
「ポランチ天野、右のサイドハーフ谷内、左のサイドハーフ、上山」
え!俺が先発メンバー?それに左のサイドハーフは村上のポディションじゃねえか?なんで俺なんだ?
「オッサン、俺はまだまだレギュラー張れる実力はありません。ここはいつものレギュラーの村上、いや村上さんにお願いします!」
俺は驚きと戸惑いが入り混じった状態でそう言った。
「そうです!いくら大学生相手と言っても、うちは名門です。大学生と言えども幼い頃からサッカーをやっているエリート。上山のような素人では相手出来ないと思います。ここは俺に行かせて下さい!」
村上が、監督に訴えるように言った。
「やかましい!俺が決めたんだ、いちいち文句言うんじゃねえ!左のサイドハーフは上山だ。いいな」
俺はさらにオッサンに言った。
「村上さんの言う通りです。俺はまだまだ半人前もいってません。俺じゃなく村上さんに!」
オッサンは烈火のごとく怒って言った。
「いいか!監督は俺だ!上山!びびってるのか?今回の試合の左サイドハーフは上山、お前だ!」
俺はそれ以上何も言えなくなった。村上も苦虫を噛んだような顔をしている。オッサンは何事も無かったかのように残りのメンバーを読み上げる。
「トップ下は立石、セカンドトップ矢野、トップは岩橋。ゴールキーパーは足立、以上だ。大学生と言えども、侮るな!うちは名門クラブだ!名門クラブの看板に泥を塗るプレーはするな!相手が大学生でも容赦なくいけ!以上だ。本日の練習開始!」
オッサンはそういうとベンチに行った。
俺に矢野さんが駆け寄る。
「上山、俺はお前をカバーしながらプレーするから安心しろ。それより、一緒に簡単なコンビネーションの練習だ」
矢野さんはそういうといろいろと指示しながら俺と組んで教えてくれた。その姿をオッサンが見つめている。
「上山!昨日は女の子2人とデートして、まだニヤけてるのか?もっと気合い入れて真剣にやれ!」
オッサンの声がグラウンドに響き渡る。
ちくしょう!オッサンは俺を見せ物にする気だ。こうなったら技術なんて言ってられない、気合いだ!
1時間ほど矢野さんとコンビネーションの練習をし、休憩に入った。
「上山くん、大丈夫。さっきはごめんね。試合応援してるから、困ったことがあったら言って」
真由さんが俺に駆け寄りそう言った。
「いや、俺、気にしてませんから。それより、ありがとうございます」
俺はそういうと次の練習に移った。オッサンは全体を見て劇を飛ばしているが明らかに俺をずっと見ている。
次の試合で必ずいいとこ見せないと行けない!俺はいつもより燃えて練習に励んだ。