Ginger Root「Loretta」に学ぶ令和のディスコ音楽。
Wingsの再来を思わせる名曲でした。
祝・アルバム発売決定。主宰が生まれ落ちた家系は元来ロックに疎くジャズ研の友人に初めてThe Beatlesの全作品及びメンバー関連作を貸してもらいましたが、最も血眼になって聞いたのはWingsのアルバムで。結果的にThe Beatlesのサウンドが魅力的に映る一番の理由はつまり、ポール・マッカートニーの作風が好きだったからなんだという結論に至った。
実験的でありながらキャッチーさを忘れない、マスでありながらコアを堅持する音楽性の支柱となった。マッカートニーシリーズの最新作が非難の嵐に遭った最中にも主宰は、そんなもんでしょう、何ならジャンクまぜそばのような朴訥とした味わいが時代を超えた当シリーズ本来の魅力だったはず。あのやっつけ感をむしろ楽しもうよと胸を張って言えるほどの自負があった。
人は未来に向かって生きていくもの。過去の音楽をリファレンスとして、いかに未来志向を貫けるか。そうした現代のリアルに見事斬り込んでみせたのが、アジアの新星Ginger Rootでした。カリフォルニア出身のバンド。得も言われぬ無国籍料理感とサウンドメイクに主宰は「Goodnight Tonight」の片鱗を見た。MVのパロディ具合もなかなか笑わせてくれます。
Phum Viphuritやikkubaruなどに代表されるローファイで涼やかな音像。近年「バンドサウンド」が希薄化しつつあるシーンに徹底的に逆行したアジアの音楽スタンスは実に痛快で、どこか青くさくいなたくて甘酸っぱい。そこに80sフィールやVaporwaveの文脈が合わさることで「周回遅れ感がまわりまわって逆に新しいのだ」という時代のニーズにも的確に応えてみせた。
例えば巷でナイアガラオマージュと声高に叫ばれるのはそれが理由。
長く伸ばした髪はたしかに達郎さん的ではありますがしかし、タートルネックに蛍光イエローのジャケットスタイルで客前に立っていたかというと疑問は残る。例えばサカナクション「忘れられないの」が徹頭徹尾オメガトライブだったことを考えた時、やはり消去法的にポールのコンテクストがより色濃いのではないか。やるならもっと徹底的にやりそうなもの。
蛇足ですが、例えばJohn MayerがKaty Perryとの破局後リリースした「Still Feel Like Your Man」のTV披露の際、元カノが部屋一面埋め尽くすほどのフェイバリットカラーだったピンク色のジャケットを纏い、ピンク色のギターを手に舞台へ上がった。これは偶然か。学者・田村由紀夫氏はかつて著書の中で「音楽は内面世界の言語である」と語っていた。(なお動画は削除済み)
曲名「Loretta」はおそらく「Get Back」から来ているものと推察されます。歌詞の成り立ちについてはかなりゲスくて際どいエピソードがありますのでここでは割愛しますが、皮肉るのではなくディスコ音楽に昇華して煙に巻くというGinger Rootの波風立てないスタイルは、どこかお行儀が良く現代的。西海岸らしいと言い換えても差し支えないかもしれません。
暗い浮世から解放されて、せめて週末くらいは我を忘れて踊り明かそうぜという機運から生まれてきたのが70年代ディスコ音楽だった。というのが主宰の理解です。そういった意味で先のコロナ禍との親和性も非常に高いのかもわからない。我々はもうダンスの踊り方すら思い出せなくなってしまった。これは単なる偶然ではなく、明確に「選び取られた」音楽性だったのだと。
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