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『べらぼう』に見るデザイン思考とアート思考――なぁんてことより「男前」と呼ばれたいっ!
大河ドラマ『べらぼう』、鱗形屋がいきなりお縄になってびっくりだった第6回。
(文フリ広島に行ってたので帰ってきてから録画観ました)
これでもう蔦重、ちゃっかり後釜におさまって板元になれるのかなと思ったら、
第7回でも、予告によると第8回でも、まだまだ先輩たちからのパワハラが続く模様。
むむー。
がんばれ、負けるな蔦重!
……という人間ドラマの部分ももちろん楽しみだけど、
純粋に、本づくりの話がまた楽しい。
◆蔦屋重三郎に見るデザイン思考とアート思考(なんちて)
最近、がらにもなく、デザイン思考なんていうビジネス用語を知った。
ようするに、
他人様(ひとさま)のお困りごとを解決する発想法
のことであるらしい。
蔦重、これなんだな。デザイン思考。
第6回ではみんなが「つまらない」と言う「青本」(=絵入り小説の一種)を、
どうして「つまらない」のか?
どこをどうしたら「面白く」できるか?
というプロジェクトがスタートした。
でもウロコ事件でそれがいったんペンディングになって、
第7回では「吉原細見」(=吉原の歩き方ガイド)を
倍の数売る!
それには、値段を半分にする!
というプロジェクトのほうが先にローンチした。
「『つまらない』と言われている青本を面白くして、本を読まない人たちにも読んでもらえるようにする」
「吉原細見を薄くして、持ち歩きやすくする」
「吉原細見を安くして、買いやすくする」
つまり
「つまらない」という困りごとを解決する。
「厚くて持ち歩きにくい」「高くて買いづらい」という困りごとを解決する。
どっちのプロジェクトも観ていてわくわくする。
手前味噌だけど、私自身がやりたいことと、すごく近い。
当てレコしたくなったくらいだ。笑
「みんな言うんです。
シェイクスピアはつまんねえって。
カビくせえって」
「だったら、とびっきり面白えシェイクスピアが出たってなりゃあ、
そりゃあもう、ハチの巣をつついたような騒ぎになりません?」
「じゃあ、面白えシェイクスピアって何だ? ってなりまさあね」
「もっとこう、活きのいい翻訳にできねっすかね??」
蔦重が本を薄くしたように、私も薄くした。
オンデマンドの自己出版だから、残念ながら安くはぜんぜんできてない。ほぼ原価割れだ。
でも蔦重も(いまのところ)儲けは出せていない。ほぼ自腹切って職人さんたちを吉原へ招いたりしてる。
だよねー、うんうん! とうなずきながら観ている。
まずは古い本を新しくする! ってことが優先なのだ。
で、思うんですけど。
「デザイン思考」、つまり貴方のお困りごと解決しますというプロダクトのつくりかたに対して、
他人様は関係ないやい、おいらがつくりたいからつくるんでい! というつくりかたを「アート思考」というらしいのだけど、
この二つ、そんなに違うんですかね?
いつも言ってることだけど、私は小説も戯曲も翻訳も、
「こういう本があったらいいな、読みたいな」
「誰か書いてくれないかな」
「……誰も書いてくれない……」
「じゃあ自分で書くか」
という感じで書いてしまう。
書きたいから書いているんだけど、同時に、読者のお困りごとを解決しているとも言える。その読者がまずは自分、というだけだ。
そして同じお困りごとを抱えている読者は他にも大勢いると思う。
私がつくったそのプロダクト=作品はそういう人たちにもかならず喜んでもらえると思うから、売ろうとしているだけだ。
『吉原細見』はガイドブックだから実用本だけど、ドラマではこれから蔦重、フィクション(黄表紙)やアート(浮世絵)を出版していくはず。
「こういうモノはまだない、だから作ろう!」
というグルーヴは何もビジネスピープルの専売特許じゃない。アーティストを突き動かすのだってけっきょく同じグルーヴだ。
蔦重自身はアーティストではないけど、このグルーヴが感じられるから観ていて楽しいし、楽しみだ。
◆粋ってやつは……
とはいえ、第6回で私がいちばん感動したのは、鱗形屋がしょっぴかれて、くりあがりで板元になれそうだという話になったときの蔦重の台詞だった。
「俺ぁ、うまくやったんでさ。
けど、うまくやるってのは……堪(こた)えるもんっすね」
これだ。
今年の大河、こういうところが好きだ(いまのところ)。
うまく立ち回ってしまった自分が、痛い。
チクチクする。
ズキズキする。
こういう台詞が書けるということは、この作家さん自身が、こういう痛みを知っているからだ。
自分の中にないものは、書けない。
うまく立ち回ってウェーイざまあ! ってな話ばかりがあふれる今日この頃、チートな自分を哀しむヒーローが、なんかすごく、良い。
ようするに、「粋」って、これだよね?
第7話の花の井もそうだ。名跡だけれど不吉な「瀬川」を襲名してまで、蔦重の出版を盛り上げようとする。
花の井の秘めた想いは僕ら視聴者にはだだ漏れで(笑)、みんな「蔦重ー!」って画面のこっち側でもだえているわけだけど、本人だけが気づかないのも二枚目あるあるで楽しいし、切ない。
盛りあがるばかりじゃない。
その裏で、どうしようもなく、哀しい。
花の井「名跡襲名のときの細見は売れるっていうし」
蔦重「けど、瀬川って不吉な名じゃねえか。んなもん負っちまっておまえ、どうすんだい」
花の井「(微笑む)不吉なわけは、最後の瀬川が自害しちまったからだけど、まことのとこを改めて聞いてみたら、どうも身請けが嫌で、マブと添い遂げたかった。それだけらしくてさ。
(さばさばと)そんな不吉はわっちの性分じゃ起こりようがないことだし、わっちが豪気な身請けでも決めて、瀬川をもう一度、幸運の名跡にすりゃいいだけの話さ」
蔦重「(感じ入って)男前だな、おまえ」
花魁-!(泣)
めっちゃフラグ立ってますけど?(泣)
でも思った。花の井、ほんとかっこいい。
男前だ。
そしてわかった。去年の『光る君へ』も楽しく観たけど、会う男ごとに「いい女だな」って目をハートにして追い回され御曹司にも溺愛され高級な紙も墨ももらい放題でなんなら托卵しても旦那からも相手の正妻さんからもおとがめなし、という乙女ゲーム無双のヒロインまひろにあんまり感情移入できなかった(笑)のは、きっと私が恋愛脳じゃないからだと思ってたんだけど、違った。
私のどまんなかは、花の井だったんだ。
無双どころか、惚れた男のために文字どおり体張って、「男前だな、おまえ」なんて感心されて、にっこり笑って背を向けて去る。
やせがまんにもほどがある……(涙)
これが「粋」ってやつだよね。
哀しいもんだね。粋って。
花の井に立ってる「絶対ハピエンになれないフラグ」、私にも確実に立ってる自信があるけど(笑)、
背を向けて去っていく花魁のえりあしが、あんまり綺麗でうっとりした。
せめて私も、後ろ姿のわるくない、男前をめざしたい。
めざすだけなら、私にもできる。(笑)
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